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「王子さん?…なぁ」
部屋へ戻るなり、手を引かれ連れて来られたのはどうやら…脱衣所、らしい。
「軍師のねーちゃんにこれから顔合わせがあるって聞いたぜ?行かなくていいのか?オレ…」
困惑の混じる呼び掛けへただ口許に小さな笑みを浮かべて、王子は自らの衣装を模したロイの衣服を脱がせて行く。
勝手知ったる、というやつか
脱ぐのにも苦労するだろう装備を、あっという間にタオル一丁に剥かれ
最後にそっと持ち上げられた銀から、艶の悪い鷲色の髪がぱさりと音を立て流れ落ちた。
それを見た王子さんは何やら難しい顔をしてゴソゴソと(本人曰く)風呂セットからブラシを取り出し慣れた手付きでさっさとオレの髪を梳いてくれて
「いてて…ちょ、わかったから押すなって!」
絡まる髪の痛みに顔をしかめ
慌てて落ちそうになったタオルを掴みながら…なんて情けない姿で風呂場へ入ると、もわりと熱気が体を包む。
「…すげぇな」
程良い高さの天井、響く声。姿が映る程ぴかぴかに磨かれた床。広い湯舟。
これが、風呂なんだ。
生まれてこの方きちんとした風呂などに入った事がなかったオレは、その大きさに圧倒されて。
ぽんとそんなオレの背中に触れられて振り向けば、同じくタオル姿の王子さん。
ふわふわと肩を包む様な銀髪に視線を滑らせると…白い肌が目に入る。正直目のやり場に困るくらい白い。
…本当に同じ男なのかぁ?
“さあ すわって”
「…はいはい」
努めて王子の体から視線をそらし、湯舟に近い場所へとロイは腰を下ろした。
目の前の曇った鏡を手で拭くと、ちょうど背後で屈んだ王子と並んで兄弟以上にそっくりな顔が映し出される。
“めを とじて”
“かみから あらうから”
鏡越しのロイの視線に気付いた王子はそう唇を動すと、ロイに見える様に蒼い小瓶をちらつかせた。
「ん…頼むわ」
…頭を洗う為のせっけんかなにかだろうか、初めて見るものだ。
目を閉じてしまっては質問しても唇を読む事が出来ないし
何と無く落ち着かない王子の様子に何か理由がある事を感じて、ロイは黙って瞳を閉じた。
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「確かにそっくりではあるんですが…」
「王子はあんな目つきじゃないです」
「目つきはまぁ、おいおいなんとかするとして」
「まずは」
「「「綺麗にして欲しい(ですよ)ねぇ」」」
「かわいい甥っ子のふりをするんだったら、せめてちゃんと風呂に入れてそれらしく改造…だね」
「はいは〜い!それなら任せてくださぁい、伊達に姫さまとお風呂に入ってませんからぁ」
ミアキス、ルクレティア、リオン、サイアリーズ。
ルクレティアへ確認事項があり、近くまで来た王子は偶然その会話を聞いてしまったのだった。
…まずい。
そっとドアへと掛けた手を離し、話題の人の部屋へと足早に歩き出す。
このままではロイが、ロイが。
ミアキスならやりかねない。
ロイの性格、自分似の容姿からして彼が良い玩具にされてしまうのは明らか。
ならば、自分がロイを仕立てる事が取り敢えずはミアキスの魔の手から彼を遠ざける事になるだろう…と、王子は考えた。
もちろん、その程度で諦めるというか満足するミアキスでないことは彼にもわかっていたけれども。
あぁ、考えるのもおぞましい
そしてまだ着替えてもいないロイを連れ、人目を盗みながら急いで風呂場へやって来たのである。
取り敢えずは大人しく髪を任せてくれてホッとした。
ロイの頭へ桶に取った湯をゆっくりと、何度か髪をたっぷり濡らす様に掛ける。
小瓶からとろりとした液体を取り出して軽く泡立て、ロイの髪を洗い始めた。
先程ブラシを掛けある程度は指が通る様になっていたが、まだまだ軋んで絡まる髪を出来るだけ優しく。
女官達が以前自分を気持ち良くしてくれた時の指使いを思い出しながら…
「……」
気持いいのか、ロイは肩の力を抜いた様だった。それを何だか嬉しく思い、更に丁寧に毛先まで洗うと、また桶に張った湯を丁寧に掛けて…
「…もう目を開けてもいいか?」
二度繰り返した所で、ロイはしびれを切らした様に息を吐いた。
そわそわと足の指を動かしている。
思った通り大人しくしているのが苦手らしい。
彼に解らない様に口許を綻ばせ了承の意味を込めてタオルを顔に押し当て渡し、髪の余計な水分をさっさと拭き取った。
「ふぅ…いつもこんな事すんのかよ?さすが王子さんつーか」
以下にも面倒そうに言うロイに苦笑を返して、今度は艶を出す為の液体を念入りに擦り付けた。
王子自身も幼い頃から使用している高価なもの。ソルファレナでのみ扱われるそれは、オボロに頼んで秘密裏に入手して貰ったものだ。
「あ、なんか…ヌルヌルする…なんだコレ気持ち悪」
全く…人の気も知らないで
全ては(色々な意味で)君の為なんだから。
ああ、とにかく早く済ませなければ。
入り口をちらりと気にして、王子はロイの髪に指を絡めたのであった。
2006/9/30
これはこれでお話はまとまっているのかも。ある日常的な。