緑に捧げる
腕の中で 消えて行った
最期まで 優しく微笑んでいた
初めて俺を ”やさしい人だ”
と言って認めてくれた
今日はそんなあいつに…
聖獣チーグルが棲むという、うっそうと緑の茂る森林。
そこへ一人の青年が、そっと足を踏み入れた。
暖かな緋色の髪を木漏れ日に煌かせながら、青年は目的の場所を見付けた様子でそっと腰を下ろした。朝露に濡れた草が彼の手のひらを擽り、この時間はまだ寒いな、と呟いて青年は空を仰ぎ見る。
「…お前の部屋にいるフローリアンを見るとさ、一瞬、まだ錯覚しちまうんだよな」
木々の緑を思わせる、けれどそれよりももっと淡く消えてしまいそうな髪色が、改めて青年の脳裏に少年を浮かばせた。
今頃は彼の慰霊祭が、ダアトで行われている最中だろう。
本来ならば、そこで彼を弔うべきなのは分かっているが、彼を想うとここが…この森へと考えが向いてしまうのだ。
それ故に青年は仲間に無理を言って、すぐに戻るからと単独で此処まで来ていた。
「…俺も、皆も…元気にやってるよ。ティアの体もお前のお陰で、すっかり良くなった」
瞳を閉じて、青年はその少年を想う。
「…ジェイドが…、俺たち、遠い昔に親友だったのかも知れないって」
サァ…と、少し冷たい風が木々と青年の髪を撫でた。
寒さに少し体を強張らせて、青年は空へとなおも言葉を紡ぐ。
「いつだったかお前…俺のこと懐かしいって言ってただろ。…なんでか分からないけど…今からすると、俺もそう思うんだ」
レプリカ同士で、何か繋がるものがあっただけなのかも知れないと、誰かが言っていたけれど。そうなのかな。
或いは本当に、前世っていうものがあったりして…そこで俺とアイツは親友であったのかもしれない。
そこまで思って、何かが…頭の中でカチリと音を立てて繋がった。
大切にしまっておいた、記憶の宝箱。
自分の中で、忘れないようにと
大切にしまい過ぎたが故に、皮肉にも見つけられなかったその鍵が、やっと。
(…親友?)
いや 違うよ
親友でもあったけれど、俺たちは
「俺…前にもイオンを…」
(ああ、まただ)
ずっと前だって、好きだったのに
「まただよ…また、お前…と…」
また、お前とこうやって、離れて
守ってやれなくて
同じ事を繰り返して
「…、……っ」
どうして、彼が生きている時に思い出せなかった
『――…未来は、どこまでも続いています』
いつか言っていた、彼の言葉が思い出される。
(そう…か
だったら、それだけ長く続いているんだから、お前とまためぐり逢う事だって出来るよな?)
「…今度こそ 絶対 に…」
涙でぼやけた木々が、緑が、澄んだ空が
優しく自分を見守ってくれている様で
緋色の青年は、薄緑色の少年を想う。
二人で、幸せになろう
自分の生を全うして、今度こそ準備を整えて。
だから俺は、お前の居なくなった世界を、ちゃんと前を向いて生きるよ。
腕の中で
消えて行った
最期まで 優しく微笑んでいた
初めて俺を ”やさしい人だ”
と言って認めてくれた
今日は
そんなあいつへの想いを、此処に捧げよう。
思い出せば それは
遥か 遥か昔の お話なのです
2006/2/11