ドアノブ回せ
「――…ク。…ルーク」
「…!な、なに」
いけない、また見てしまっていた。
わかりやすい俺のことだ。
自室へ戻ろうとする彼を、何かもの言いたげな視線で見てしまっていたのだと思う。
「…言いたいことがあるなら、はっきりと言って下さい」
「…それ、ティアみたいだ」
「話を逸らさない」
伸ばされた手にぐ、とおとがいを持ち上げられて、思わず息が詰まった。
息づかいが感じられる距離。合わせられる視線から感じたのは、期待と…なんだろう、俺には解らなかった。
「あ、…俺」
「…はい」
どうしても俺の口から聞きたい、と彼は言う。
ジェイドのことだから、そんな言葉に興味はないだろうと思っていたのだけど。
そう言われたからには、言ってあげたい。
…いつまで一緒にいられるかもわからないんだ。
「………」
ああ、待ってくれてる。
宝石みたいに綺麗な深い赤色の瞳が、俺を見詰めている。
さあ、言っちゃえよ、俺。
「ジェイド…俺、む…っ?!」
その言葉を紡ごうとした瞬間に、壁へと押し付けられ唇を塞がれた。
何がなんだかわからない、顔を離したジェイドは至極機嫌が悪そうだったけれど、俺と眼を合わせるとすぐにふわりと微笑んでくれた。
せっかく言えそうだったのに、この人は…
「そのー、なんつーか…タイミングが悪かったな」
「は…ガイ?」
「まさか、立ち聞きの趣味までお有りとは」
ほんの五、六歩先の廊下の曲がり角から姿を現したのはガイだった。…全然気付かなかった。
悪い悪い、といかにもすまなそうに頭を掻きながら歩み寄ってくる様子にふとジェイドを見上げると、彼はもういつもの横顔に戻っている。
「そういうつもりじゃなかったんだが…。食堂から部屋へ戻るにはこの道しかないんでね。ジェイド、あんまりルークに無理させてくれるなよ」
「ガイ。大丈夫だよ、ちょっと眼の調子が悪くて…診て貰ってたんだ」
さらり、と口から出た言葉に自分で驚いた。
ちょっとは嘘がうまくなったかな。ごめん、ガイ。
「…そうだったのか、大丈夫なのか?」
うん、と頷いて両目を見開いてぱちりとガイを見た。
そうまでしなくても解るさ、良かったなと笑って俺の肩を叩くと、ガイはジェイドへ、先に戻ると言って歩いて行ってしまった。
「…いけない子ですね。いつからそんなさらりと嘘が吐けるようになったんです」
少ししてガイの背中が見えなくなると、ジェイドが肩を竦めて言った。声は笑ってるから、俺もつられて表情緩める。
きっとそれは、あなたに似たせいだよ。
なんて。
「だって…あのまま俺が黙ってたら、なんか面倒なことになりそうだったし。…それより、なんで」
最後まで言わせてくれなかったんだ、と言ったら
「…分からないんですか」
多少なりとも複雑そうな顔をしてる…呆れてるのかな。
また失望させてしまったかと、胸が少し締め付けられた。
「っ、…わからねぇから訊いてるんだろ」
「…それならばそれで結構。さぁ、もう寝なさい」
「へっ??」
背後のドアを不意に開けられて、背に寄りかかる形だった俺は危うく尻餅をつきそうになり、慌てて体勢を立て直した。でもジェイドはもういない。そのまま廊下へと走り出ると、彼が隣室のドアを丁度開けたところだった。
「ジェイド?!」
「…知りません」
パタン、と閉じるドアを唖然と見詰めていた。
あいつ…
「…拗ねてる」
はぁと盛大なため息を一つ吐いて、ゆっくりと彼のいるドアの前に立った。
いい年して、何を拗ねてんだか。
でも。
こうしてジェイドが拗ねてる、とかそういった心の動きが分かってこれて。
それは、俺がばかだから、俺に対しては分かりやすく出してくれてるのかもしれないけれど、あの人がこんなに近く感じるようになれたことが…凄く嬉しい。
よし。
…こういう時は、七歳児を理由にガンガン攻めろ。
ちょっと強引なくらいがいい。
綺麗なあの人の、驚く顔が眼に浮かぶ。
「…へへ」
思わず緩む頬を引き締めて、もう一度。
俺はドアノブへと手を掛けた。
End
閉じたドアを開くのに、躊躇いなんていらない。
2007/2/25
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あとがき。
大佐がどうしても「ルークの口からなら」聞きたい、と思わせる言葉はなんでしょうか…。
他の誰にも聞かれたくなくて止めたのに、それを分かってもらえなかった乙女大佐。乙女すぎてゴメンなさい。
拍手SSでした。