『ルージュの赤より、ただ』






「うわ、見て見て、この指輪きれーい…」


それこそ宝石みたいに目を輝かせて言うアニスの指先を覗き込んだティアも、感嘆の声をもらしたようだった。


「あら…本当、ルビーかしら」


「お目が高いですね。これはかなり稀少価値の高いもので…せっかくですからお試しになりませんか?」


「えっ、いえ、その…」


「いいじゃん、試すだけならタダだよティア」


「…う、うん…じゃあちょっとだけ」






「楽しんでるみたいだな」


とん、と肩に重み感じて振り返れば


「…ガイ、あぁ。息抜きになってるみたいだ」


半年に一度、ケセドニアで行われている祭典。
何でも領主であるアスターの計らいで、普段はここでも集まらない様な彼の蔵出しの品や豪奢な宝石などが売りに出されるらしい。
珍しい品物見たさに世界中から人が集まっているようだ。
たまには息抜きしなきゃっていうんで、遊びに来たのはいいものの。


「何だか俺、人疲れしちまったよ…」


「はは、まぁ…これじゃあな。先にアルビオールに戻るか?」


もう日が傾く時間だというのにまだまだ人が引かない。
女性陣の買い物は、長いと相場が決まってるけど、朝から付き合って流石に疲れた。
ガイの優しい言葉が嬉しい。


「んー、だな。お言葉に甘えてそうさせ「ねぇルークぅ!」

「な、なんだ?」

「じゃーん!ほら、ティア、ルークにも見てもらいなよぅ」


…何なんだ、今帰ろうとしてたとこだったのに。
でもそれを今言ったら後で大変そうなのは俺にもわかって、取り敢えず黙る。

アニスの後ろに隠れるようにしていたティアが、もじもじしながら顔をあげた。


「べ、別に私は、そんなんじゃ…」


…いつもとティアの雰囲気が違う、ような。
ふと、艶良く彩られた唇へと目が行った。


「へぇ、素敵じゃないか。とても綺麗だよティア」


「えっ…あ、ありがとう…お化粧までしてもらえて…少し赤がきついかなって思ったんだけど…」


あれ、なんで…ジェイドの顔が浮かぶんだろう。


「私もティアみたいにお化粧して大人の色気を漂わせたいなー!」


「はは、それは楽しみ。旦那の意見も聞いてみたかったんじゃないかい?」


ティアの指にはめられた赤い宝石、唇に乗せられた鮮やかなルージュ。


「なーに黙ってるのルーク。さてはティアに見とれて?」


うぷぷ、と口元押さえて喜ぶアニスに裾を引っ張られ、ハッとした。
俺、今なに考えてたんだ。

「ば、バッカそんなんじゃねぇよ!俺は先に戻るからな!」

何だか気恥ずかしくて大袈裟に否定してしまった。
思わずといった具合に苦笑するガイにしまったと思ったけれども、時は既に遅し。


「…ばか」

「ルークったら、さいてい」








一人外に出て、うなだれる。
俺だけほっぽりだされて、着いて来ようとしてくれたガイは二人に捕まってしまったみたいだ。

(ありゃあと二時間はダメだな)

思って、終わるまで待つつもりで壁へ寄り掛かり、人の往来に目を向ける。


…ティアは、確かに綺麗だった。

でも目を引く赤を見てしまえば、俺の頭に浮かぶのはあの人のことばかりで。

目の前を行き交う人の中にさえ、ハニーブロンドの髪色を探してしまう。
帰って来るのはまだ少し先で、こんなとこ歩いてる訳ないのに。



「むしろ…迎えに行きたい…」



『おやおや、私が戻るのを待てなかったんですかー?』



眼鏡の奥で微笑みを浮かべたあの人に、そうやってからかわれてしまうのは目に見えてる。

けれど、想わずにいられない。



広場に建つ時計塔を見上げて、すぐ脇にあったウィンドウからガイ達を覗き見てみる。

…迎えに行けるのはまだまだ先みたいだ。

なかなか出て来そうもない様子に溜め息をついて、雲一つない青空を見上げる。
マルクトのブルーを思わせる青さにまた、意識を持っていかれてしまった。






END


2007/3/30


世界の色はこんなにも、彼へと繋がっていたんだ。





拍手文にあげていたものです。
いつもジェイドのことが頭から離れない少年ルーク。



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