11:マウントポジション



「あ…!」

吹き上げるような突風。

(お兄さまから頂いた、大切な帽子が…!)



さくさく さく


さく さくさく
 


体の弱い私は走ることを禁じられているけれど

そんなことより

お兄さまの下さった帽子がどこかへ行ってしまうことが

お兄さまがどこか遠い、手の届かない場所へ行ってしまうことの暗示の様に思えて

風をはらんで、ふわりふわりと飛んでいくゆくそれを

脇目も振らずに追い掛けました








「はぁ、はぁ…」


なんて、意地悪な風なのかしら
帽子が下ろされたのは
自分二つ分ほどの高さにある木の枝先

何か長い棒のようなものがあれば良いのだけれど、見当たらず

じゃあ、魔法で落として…いいえ、帽子に傷がついてしまいますわ
トクナガに相談する?…いいえ、戻っている間にまた飛ばされでもしたら、見失ってしまうでしょう



ならば、方法は一つ。








「よい、しょ…」

幸い幹はしっかりとして登りやすく、時間は掛かったけれどもあともう少しの所まで来れました


ミシリ ミシリ


それは枝からの警告だったのかもしれないけれど
指先に触れる、やわらかい生地を掴むことに集中しきっていた私には届かなくて


「セレス!」
「!」


お兄さまの声と視界がぐるりと回ったのは、ほぼ同時だったと思う




ああ、枝に体重を乗せすぎて落ちてしまったんですわ
帽子は?帽子…


「…おい」

「!…おに、…神子さま!何時からそこにいらっしゃったのですかっ?!」


思えば、あの高さから落ちたのに衝撃が少なかった
…お兄さまが受け止めて下さったのですね
久しぶりに会ったけれど、お変わりなく
嬉しくて思わず頬が緩んでしまいそうになるのを、薄っぺらい意地がこらえさせて。


「助けてやったのにやっぱり鬼扱いかよ…あー…遠目にお前が木に登るのが見えてな。嫌な予感がして、走ってきたらこうだ」


少しむくれるように言ってから、すぐに優しい微笑みに変わり


「ギリギリ間に合って良かったぜ。…お怪我はありませんか、お姫様」


身を乗り出していた私にふわりと被せられた帽子
女の子なら誰もが憧れる「お姫様」、という単語と
無事を確かめるように伸ばされた優しい手に頬を、耳をくすぐられて
そして
自分よりも少し色の濃い髪がしどけなく広がった様を見て
私の胸は高鳴ってしまいました


これは、発作なのかしら
それとも…

「…セレス?」

お兄さまの髪が突っ張らないように、首筋付近の地面に手をおいて
そのまま、触れるだけのキスを落とす。

「…!」

お兄さまも、そんな顔をなさるなんて…私の知らない面を知ることが出来た様で、嬉しい

「…た、ただのお礼ですわ!足が痛むから、早く連れて帰って下さいませ!」

「…へいへい、我が侭なお姫さんだ」

それでも、困ったような、でも優しい表情は変わらなくて。



自惚れてもいいのでしょうか

私は貴方から愛されていると。

何をしても優しく包んでもらえるのだと

そう自惚れても、いいのでしょうか…





2005/8/9

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