6:ひっぱる







それは一瞬の出来事だった。

思わずオレが引いちまうほどの威圧を感じさせた、彼の瞳

いつも淡い笑みを忘れないこいつが

滅多なことで怒ることなんてないこいつが。

こんな冷たく射抜く様な視線を他人に投げることが出来るなんて。













城から少し離れた、湖が臨める場所
そこでぼんやりと城を見下ろしていた王子さんの背後へ近付いて、くい、と

ほんの悪戯のつもりだった。
用事を頼まれてさんざん城の中を探し回ったあげく、こんなとこにいやがるもんだから。
うさ晴らしに銀色の三編みを、引っ張ったんだ。

「!!」

そしたら、あいつ!
振り向きざまに三節棍抜いて、喉元を凄い勢いで薙ぎ払おうと
(本気でそんな事されたら間違いなくお陀仏だ)

でも、次の瞬間オレだって認識したらしく

“…ごめん、ロイ”

急にしょぼくれて、それから少し微笑んで
いつものあいつに戻ったんだけど。

“…ロイ?”

いつも淡い笑みを忘れないこいつが、滅多なことで怒ることなんて無いこいつが
こんな冷たく射抜く様な視線を他人に投げることが出来るなんて。

「ああ、気にすんな」

…なんだよ、お前、そんな表情も出来るんじゃねーか。
穏やかに見えて、熱い部分をきっちり持ってやがる

恐らく数少ない者しか知らないであろうこいつの、一面が見られたから。
オレは思わずにやりと笑ってしまった。


「帰ろうぜ。あんた探して来いって言われてんだよ」


やけに嬉しそうに見えたのか、軽く首を傾げながら
それでも気にしていないオレの様子に安堵して頷いた王子さんの手を握り、城へ続くつり橋へと歩き出した。





(あの瞳、オレに似ていた)

昔のオレの眼だ
やり場の無い怒りと、苦しみと

全く似ていないかと思ったけど
そんな事はないんだ、あんたとオレ、きっと、もっと近付ける、分かり合える

だってこいつは、オレに似ているから
そしてオレも、こいつに段々と似て来ている

でも
オレが王子さんになる気はさらさらねぇ、あんたに感化されんのはここまでだ

王子さんをオレの所まで、もっと引きずり下ろしたいんだよ



さぁ、これからどうやってオレを染み込ませてやろう



そう思いながらオレは
自分よりも少し小さい王子さんの手を、これ以上ないくらい優しく握った









2006/8/17






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