想いの欠片



「ん…」  

床が冷たい。 
ここは、何処だ?     




想いの欠片     




「うっ…く…」  

体を起こそうと腕に力を込めるが、思うようには行かず。 
なんとかうつ伏せた体を仰向けにした所で、やっとそこが何処だかわかった。  

「…んでだよ…」  

蝋燭の弱々しい灯りが、鉄格子越しに見える。 
ここは、牢屋。昼なのか夜なのかも解らない。 
鉄格子まで這い、しがみつきながら、力を振り絞って立ち上がる。  

──……かつん、かつん  

足音。誰かが来る。  

「おい、ここから出せ!」 
「…今の状態のお前を、出す訳にはいかない」 

ぴしゃりと、足音の主はそう告げる。暗がりから現れたのはウィルだった。  

「何でだよ!出せ、出せ!」 
「セネル…」  

空回りする気持ちをどうにも出来ずに、残された力で鉄格子を突破しようと拳に力を込めた。  

爪術。  

「また、お仕置きされたいか」 
「!」  

"お仕置き"  

ふっと、逃げ出そうとする気力が削がれた気がした。 
そのくらいの事では普段は動じないのに。 
何故だろう、恐い。  

──…カチッ…ガチャン…  

牢の中へ、ウィルが入って来た。灯りを背にしていて表情が窺えないものだから尚更怖くなって、思わず壁際へと後退る。  

「嫌だ、来るな…!」 
「どうした。怖いか」 
「っ」  

背中が壁にぶつかる。 
じりじりと近付いて来る大きな体。   


殴られる。  

目をつむり歯を食いしばって衝撃に備えた…が、両手首にガシャリと金属の物が巻き付くのを感じて、恐る恐る目を開けた。 
つけられたのは、鎖で繋がれた手枷  

「…?!」  

次に見えたのは相手の肩口。  

瞬間ふわりと体が浮き、腕を上げられ何か壁の上の方にある金属に、手枷の鎖がひっかけられた。 
体が解放されると手首に体重がぐん、と掛り骨が軋む。少しの所で足は地へ届かない。   


「あぐ…っなに、を!」 
「言っただろう。"お仕置きだ"と。…手首が辛いか」  

肉に食い込んだ枷を指先でキンッと弾かれるとそこからじわりと広がる痛みに体が震えた。
それを悟られまいと睨みつけたが、ウィルは気にもとめない様子だ。その間にも枷はどんどん食い込んでくる。ずきずきと痛みが激しくなって来た。下手すれば、血が止まって壊死してしまうのではという考えに及んだ所で、ふっと痛みが和らいだ。  

「あっ…はぁ…」 
「…こうすれば楽だろう」 
「ッ…!嫌だぁ…!」  

確かに楽にはなった。 
けど、今の…膝裏を持ち上げられ、大きく足を開いた中にウィルが立っているこの状態に、一気に体が熱くなった。   


「いいか、セネル。これは"お仕置き"だ」 
「は…ッ?!」  

下着を膝までずらされ、恥ずかしさと何をされるか分からないという恐怖で足を必死に閉じようとするが、ウィルが居ては叶わない事。 
簡単に押し広げられてしまう。  

「んぐっ?!」 
「良く舐めろ…、…そうだ、偉いぞ」 
「はっぁ、なに…!」 

──…チュグッ、  

「い!ァ…ぁっ!」  

一度も物を受け入れた事のない場所。自らの唾液をまとった指が、中でゆるゆると強弱をつけて動かされる。  

これは、まさか…  

脳裏を嫌な考えがよぎった。  

「ウィ、ル…ぅ!いや、だ…!」 
「…暴れるな。余計辛いぞ」 
「あ…ゥ、ひッ!」  

粘膜を緩く掻く様に曲げられたまま、指が水音と共に引き抜かれた。一瞬電撃が走ったかの様に感じてびくんと体が痙攣し、腰を突き出す形になってしまう。  

「ほう…積極的な事だ」 
「…っ?」  

──…ちゅ…ヂゥ…  

「Σふぁ、ァッ!」  

中心が、熱い粘膜に包まれた。 
腰に巻き付けていた布の下で考えられないことが起きている。 
他人の口に含まれるなど一度も経験した事のないそこが、歓喜に震えているのが自分でも分かった。  

こんな状況で感じてしまっている自分が情けない。  

だらしなく漏れ出す声を、止められない。  

─…ぢゅる…ヂュッ!!  

「ん、ぁ…あ─…!!」     




一際強く吸われ、簡単に達してしまった。 
ぐったりとした所で体を再度持ち上げられ、ひっかけていた鎖を外された。やっと下ろせた腕。無理な体勢でいたためか節々が痛い。  

「……?」  

体に触れる手が、酷く優しい事に気付く。暗がりに目は慣れて来ていたが、ウィルの表情からは何も読み取れなかった。  

「ウィ、…ル?」  

「…一人で行かせて、野垂れ死にでもされたらかなわんからな」  

体力を消耗させたのだ、と  

「俺は…っ野垂れ死にする程、弱くなんてない!」  

「…これより、更に先の事をされたいか」  

「っ…」   


それが何の事なのか理解し目を見開いたのを見て 
ふっとウィルが笑った。  

空気が、和らぐ。   


「冗談だ。…もう狂犬などと言わせないでくれよ」  

「くそ…いつか噛みついてやるからな…」  

「楽しみにしている」  

不思議と、もう怖くは無かった。 
それよりいつの間にか、腕の中に抱かれている様な状態になっているものだから、先までの事を思い出してまた恥ずかしくなる。 
やっぱり情けなくて、そっと俯いた。  

「明日、俺も協力しよう。子ども一人では些か不安だ」  

「…勝手に、しろ…」  

いいさ、勝手についてくれば良い。俺を繋ぎとめたと、思っていればいい。 
利用するだけ、利用してやる。     




それでも。 
心の中で、どこかホッとしている自分がいることにセネルはまだ、気付かない…    



END    



********  
おまけ。   


「…いいのか、俺を出して」  

逃げるかも知れないのに。 
そう言いながらも青年は、与えた服には何も言わずに袖を通している。 
この青年は素直なのか、そうでないのか…。  

「その服装で逃げるつもりか、お前は」  

「俺はどんな格好だろう…と……、…おい」  

「下は洗濯中だ、我慢しろ」  

「!……これでいろって、……」  

自分の着たシャツがそれだけで体を隠すに事足りてしまう大きさだということに気付いたのか、セネルは黙ってしまった。 
彼の元着ていた服は、既に泡の中だ。いくら彼でも、ダボダボとしたこの格好では出られまい。  

「あの程度で許してやったのだから、大人しくそれで眠れ」  

「…。あの程度って…本当にあれ以上するつもりだったのかよ…」  

「…さあな。…あまり嫌われても」  

「何?」  

…しまった、  

「…早く眠れ、明日は早いぞ」  

軽く息を吐き、不信気にちらとだけ此方を一瞥した彼だったが、大人しく寝具へと入る彼の様子だとどうやら聞かれずに済んだ様だ。 
眠りやすいよう、そっと部屋の明かりをゆるめる。  

「…。ゆっくり休め」  

「…、……」    



バタン。     




「…何をしているのやら」  

寸での所で抑えたが、下手をすれば本当に、あのまま最後まで抱いてしまいかねなかった。  


なぜ自分がそこまでして彼を引き留めたのか。  

無鉄砲に行動する彼を、放って置く事など出来なかった。  

そうだ、ただ…ただそれだけ、だ。   


「……どうも落ち着かんな」   


暫く感じなかったこの想いを、どうするべきか。 
ドアの前で独り言ちると、洗濯物を片付けるべく風呂へと向かうウィルであった。 



END



2006/9/30 修正

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