コイツは君で 君はコイツで



目覚めると



目の前で静かに寝息を立てる





"俺"がいた。













目の前には自分の寝顔。
後ろを向けば、ティトレイの寝顔。
挟まれる形で俺はいる…らしい。毛布を抜け出し、状況を冷静に把握しようと、首を垂れた先に目に入ってきたのは


金色がかった、茶の体毛に覆われた手。



…夢、だ。これは。
きっとザピィを撫でながら眠った所為で、こんな夢を見ているんだろう。

頬をつねる事は手の構造上できない為、頬を叩いてみる。

─ぺふぺふ。

…、…痛いとか言う前に触感がやけにリアルだ。
流石に血の気が引いた俺はベッドから飛び下り、洗面台の鏡の前に立つ。

「キ…!!」

…認めざるを得ないか。
鏡の中には、硬直したザピィ…もとい俺がいる。



暫く鏡を前に途方にくれていると、ふとティトレイの顔が浮かんだ。
彼なら自分の状況を分かってくれるだろうか。


「ん……」

眠そうな彼の小さな声を、音に敏感な獣の耳が拾う。続いて布団の擦れる音。

「…、ヴェイグ…??」

僅かに上擦った声に
どうしたんだろうかと洗面台を飛び下り部屋へ戻ると、そこにはベッドでくすぐったそうに笑うティトレイと、彼の首筋に顔を埋めている"俺"。

「どうしたんだよ…」

怖い夢でも見たか、なんて優しく微笑みながら"俺"の背中を擦ってくれている。

…でも

ティトレイ、それは俺じゃない

俺はココだ…!!





********





珍しい事もあるもんだ。

人の気配で目覚めてみれば、彼が擦り寄って来ていて。

こんな風に、向こうから甘えたりされる事なんて滅多に…いや、今までなかったから驚いた。

それと同時にふわりと嬉しい気持で一杯になる。

「ヴェイグ…怖い夢でもみたのか?」

首筋にかかる小さな吐息と、密着する彼の体を感じて自然と顔が熱るのが分かる。

頬をくすぐる蒼がかった銀糸の髪に軽く口付けて、背中を撫でてやると、腕の中でみじろいだ彼に

「…!」

ちろ、ちろ、と。
首筋を舐められた。

勿論、彼がそんな行動取らないのはさっきも言ったけど良く知っているわけで。


「っ、お前…?!」

ヴェイグじゃ、ない。
直感的にそう感じた俺は彼の肩を押し返した。

「キキッ」

何処からかヴェイグの肩にザピィが駆け上がってきて。

誰かさんみたいに険しい顔で、手足を必死に動かして俺にジェスチャーを送ってる。

……


…ん?


俺に押し返されてから、大人しく穏やかな表情でこちらを見詰めているヴェイグと。
ジェスチャーが伝わらないと思ったのか、うなだれて元気の無いザピィ。

つかジェスチャーを使うマフマフなんて聞いた事がない。



…まさか。


でももしかして、もしかすると。


クレアとアガーテの件もあるから無いとは言えないけれど。
でもまだ入れ替わっているという確証もないではないか。

混乱する頭をなんとか回転させようと視線を巡らせると、あるものが目に止まった。


…あぁ、そうだ。
取りあえず入れ替わっているという確証が欲しい。



以前、ヴェイグがこの方法で餌を与えていたのを思い出したのだ。
その時ザピィはすぐに寄って来て、器用に木の実を食べていた。

その時のザピィが、ちょっと羨ましかったから覚えていたのかもな…


「ちょい待てよ〜…」


サイドボードへと手を伸ばし、置いてあったマフマフの好物の木の実を口にくわえる。


…すると。
それをジッと見詰めていたヴェイグが、やんわりと俺の腕をすり抜けて這い寄ってきたではないか。


…ビンゴ。


ヴェイグの中に、今は何故かザピィがいる。ザピィの中には…と、注意をそちらの方にそらした時。

「ぉッ…?!」

近付いて来た彼にのし掛られ、押し倒されてしまったのだ。
そしてくわえたままの木の実に形の良い唇が下りて来て…ドギマギしている俺を尻目にうまく実だけを食み、更に実の移り香がするのか俺の唇を小さな舌使いで舐めて。
…満足したのか、また首筋に顔を埋めてしまった。



…やばい。

頭では分かってるのに。

見た目は愛しいヴェイグなものだから。




…ちょっとだけ、なら良いよな?

我慢出来なくなって、ヴェイグにキスしようとした瞬間。

肩に小さな重み、そして



バリリッ



「ってぇ!!」


肩に移って来たザピィ…もといヴェイグに思いきり頬を引っ掻かれてしまった。

恐る恐る目を見てみれば、
「俺の姿をしていればなんでも良いのか」というような色が見える。
こ…怖い。早く謝らなければ。

「ご、ごめん…」

体を起こして、肩から飛び下りた彼を両手で持ち上げて顔を覗き込みながら素直に謝る。
暫くの間くりりとした目で俺をじっと見つめていたが、やがてゆっくり頷く様な仕草。

許してくれたのか…?

と、手の中でみじろいだ彼がこちらを見上げて何か言いたそうに口をもこもこ動かして。

「どした…?」

言葉を喋る事ができるとは思わないけども、動物にするのと同じ様に顔を近付けてみる。

「キキ…」

ちゅ、と。
小さな口で触れるだけのキスをされた。
すぐにフィと横を向いてしまった彼をぽかんと見つめてしまう。

……


………


か わ い い…!!


相手がザピィの体なのを通り越して愛したい衝動に駆られ、思わずもう一度キスをしようとした…のだが。


がちゃり

「あんた達、何時まで寝」





……沈黙。





「…お邪魔し「わー!!待てヒルダ誤解だっ」








「…で。ザピィとヴェイグが入れ替わっちゃった、と」

何事も無かった様に引き返そうとしたヒルダをなんとか引き留めて、話を聞いてもらっている。

退屈したのか、ヴェイグの体に入っているザピィは俺の背中にもたれていつの間にか眠ってしまった様だ。

「…ま、他の皆に知られたらややこしい事になりそうだし。今直ぐに呪いをしてあげるわ」

「!そか…入って来たのがお前で助かったぜ。な、ヴェイグ」

肩の上に乗っている彼に声を掛けると、頬ずりして答えてくれて。その様子を見て苦笑したヒルダがヴェイグを抱き上げ、眠っている彼の体へと近寄る。


「…あんたは後ろ向いちゃ駄目」
「いでで…はいはい」

頭をぐいと前に戻されてしまったので仕方なく目を閉じて背中に意識を向ける。
ヒルダに任せれば、安心だ。





ティトレイが大人しく前を向いたのを見て、髪飾りに忍ばせていた気付薬を取り出す。

「…少しキツイけど。我慢して頂戴」

心配そうに覗き込むマフマフにそう囁くと、鼻先に少量のそれを塗り付けた。
ぴくん、と体を震わせて脱力したのを確認し、ティトレイの背中で眠るヴェイグの体にマフマフの体を抱かせる。

そして一人と一匹の額に指を置き、意識をそこに集中し…軽い──といっても、密着していた為にとばっちりを食った緑色の男は悲鳴を上げたが──瞬間的な、放電。

「…ぉ、前。今ビリリって…」
「情けない声出すんじゃないの。…ほら、こっち向きなさい」
「…おう」

まだちょっと手が痺れてるけど、言われた通りに振り向いて見れば、もそりと起き上がったヴェイグと視線が絡む。

「…どう?戻ったかしら?」

自分の手を見詰めてから、ゆっくりと、ヴェイグが頷いた。


「ヴェイグぅ…!」

「ティトレイ…、…」

がしっ

「…へ?」

抱き締めようとしたら、肩を掴まれてしまった。

「…あんた、入れ替わってる間に何かしたんじゃないの?」


拒絶されて硬直している男に冷ややかな視線を投げながら、ザピィを抱き上げたヒルダが部屋を出る前に一言。

「今度は自分で何とかしなさいよ」

…ぱたん。


「ちょ、ヒルダ…っ?!」


…ぺちん。

「はっ…?!」

「…爪、痛かっただろう?」

頬に絆創膏を貼った時の突っ張る様な感覚。頬に手を当てれば、思った通りの感触があって。

「ぁ…怒って、ないのか…?」

恐る恐る訊くと、コク、と頷いて申し訳なさそうに俺の手の上に手を重ねて。

「少しザピィに…、…いや、…すまない。ヒルダが気を遣ってくれた様だな」

言い掛け、照れを隠す様に話題を変えて視線を逸らした彼を見て…ふと。

「…ザピィに嫉妬したのか?」

あ、肩がぴくんってなった。図星だ…こういうちょっとした反応も、好きなんだよな。

「…ヴェイグ」

一瞬おいて、ゆる、と視線がこちらへ向けられる。

「俺…お前がどんな姿になっても、気持ちは変わらねぇから」

ああ、俺今すげぇ恥ずかしいセリフ言ってる気がする。
…でも、本当のことだから。

「…直ぐに、俺じゃないと気付いたみたいだったしな」

クス、と微笑む彼の手をとって、そっと口付けた。

「…ティト」


さっきの、続きを。

彼の唇は確かにその形に動いたと思う。

結局、その日は一日ヴェイグと…へへ、まぁ朝からいろいろあったし。



可愛いヴェイグとべったり出来たんだ。

たまには良いよ、な…?







2005/5/9

アンケートお礼小説でした。
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