誓
「…レ…行くな、生きるんだ、サレ…」
薄れ行く意識の中
ボクは
銀色の天使の声を聞いた
「ん…、ぅ」
起き上がろうとするが、体中が痛んで思うようにいかない。
首だけなんとか動かすと、近くの窓からはやわらかい光がもれ、そよ風がカーテンを揺らしている。
「…ここは…、ボクはなんで…」
ヴェイグ達と戦い敗れ、その後…
「…あぁ…トーマに…刺されたんだよね…、ク…」
思い出しただけで虫酢が走る。やはりガジュマは気に入らない…。
…待てよ。
なぜ、ボクは生きてるんだ
刺され、貫通した腹の傷をそっと触ってみる。とその時部屋のドアが開いた。
「!」
「っ!…あ…気が付いたんですね!」
ピンクのクロークを纏った女のコだ。確かヴェイグ達といた、…ということは…
「サレさん…ヴェイグさんがあなたを…っ今呼んで来ますから!」
持っていた道具を置きぱたぱたと部屋を出ていく姿をぼんやり見詰めながら、自分が意識を失った時のことを思い起こしてみる…
「…、ふ…ダメ。…銀色しか。思い出せないねぇ…」
自嘲気味に笑い、急に瞼が重たく感じたボクは吸い込まれるように眠ってしまった──
──────────
「…まだ苦しそうだ…」
「はい…でも、この町のお医者様に聞いて調合した薬が…、だんだん効いて来ると思います」
二人の会話がぼんやりと耳に入ってくる。
「……」
「ヴェイグさん…大丈夫ですよ。ヴェイグさんの処置のお陰でサレさんは体が…」
…よく聞こえなくてイライラする。もっと…
─カチャン
身じろぎした所為か、脇に置いてあった医療器具を落としてしまった。
彼等がそれに気付かない分けもなく。
「サレ…!」
「サレさん、まだ動いちゃ…」
「…う…るさい、放っておいてくれ」
自分でも声が震えているのが分かる…すっかり染み付いた台詞が口をつく。
…違う、ボクが言いたいのはこんな事じゃなくて…
─トクン
傷の痛みなんかじゃない、この胸の痛みは
…何なんだよ…
「ぁ…あの。私…お薬をまた作って来ます。ヴェイグさんはサレさんを…」
気を遣ってるんだろうか。そっとヴェイグの反応を伺うと、彼は了承した様だった。
寝台の脇の椅子に腰掛け、おもむろに額に手を当てられる。
「!」
「…、熱…まだ辛いだろう?」
瞬間、額の手が淡く光り氷の様に冷たくなった。気持よくて思わず体の力を抜いてしまう。
「…。なぜ、ボクを助けたんだい?」
瞳を閉じて問う。
すると彼は
「…助けたかったから、だ。手に掛けたくないと言った」
「……」
フォルスで冷えた手で、ヴェイグはボクの髪を梳いてくれた。
人の手は、こんなに気持よいものだったのだろうか。
「ヴェイ…グ…」
思えば、生まれてこの方誰かにこんな風に接された事などなかった。
産まれ持ったフォルスのせいで人や親からも疎まれ…虐げられるなんて嫌だ、見返してやると幼い心に誓い、…その日からボクは心を閉ざして人を不幸にし、踏みにじる事に快楽を覚えるようになっていったのだ。そんな自分を彼は…
心地よい手が外されふと現実に戻る。
「…」
「……起きて水が飲めるか?鎮痛剤を…、アニーが今解熱剤を調合してくれている」
鈍く光る大きめの錠剤と、コップが視界の端に入る。体が痛みで動かせないのは何とかしたいが、まさか「動けないから飲ませてくれ」なんて素直に頼める訳も無く。
「…そんなもの…。まぁ…キミがどうしても飲んで欲しいっていうなら別だけ、…っ!!」
青い瞳とサラリとした銀色の髪が視界を遮り、無防備だった唇を舌でこじ開けられた。反射的に逃げる舌を絡め取られ口内をねぶられる。
「んっ…ふ」
「…ン…」
キスに呆然としている間にヴェイグは水と薬を口移しでボクの喉へと押し込んだ。
「っ…はぁ、…ふふ、ヴェイグ…面白いねぇキミは…」
「……。ああでもしなければ飲まなそうだったからだ。…大人しく寝ていろ」
表情を変えずにさらりとかわされて。
口移しなんて彼らしからぬ行動に思わず黙りこみ、視線を外した彼の横顔を見つめる。
─こんな訳の分からない感情を植え付けられて
──自分だけなんて、悔しい
普段の自分ならば
こんなことでヒューマ一人になんかに絶対食い付かない
初めて、他人へ興味を持った
彼の「全て」が欲しい
ああ…決めたよ
「…ボクを、本気にさせたね。ヴェイグ…」
「!やめろ、まだ、」
─君を手に入れるためなら何だってするから。
フォルスを感じて行動の意味を悟った彼の制止を振りきり、ボクは彼の前から姿を消した─
去り際に見えたのは、心なしか寂し気な瞳の色
大丈夫
いつでも会いに来てあげる
それまで、死ぬんじゃないよ…?
「…サレ…」
ヴェイグは一人、サレの温度が残るシーツを撫でた。
2005/1/18