蒼の簪
─カチ…ン…
バッグから落ちたのは
幼き日の宝物
一日の汗を流した後、ティトレイはタオルだけ腰に巻いた姿で、着替を探すために文字通り荷物をひっくり返していた。
逆さにしたバッグをひょいと投げ出そうとした瞬間、それは落ちてきたのだ。
「ん…?!おぉ、こりゃぁ…」
それは、彼が大切に持っていた「カンザシ」と呼ばれる遠い過去の時代の髪留めであった。
現在では貴重なそのカンザシを、彼は幼少の頃砂浜で姉と遊んでいる時に偶然発見して今に至る。
「手当たり次第に詰めて来たから…たまたま入っちまったんだな」
落ちたそれをそっと拾い上げ、部屋の灯りにかざしてみる。
白銀の本体に紺碧色のラインが数本。同じ色の小さな貴石が控え目に散りばめられた、それはまるで…
「…ヴェイグ…」
「ティトレイ」
「のゎ!!」
耳元で囁く様な低音に驚き…危うく落とす所だった。
入れ違いで入ったヴェイグが風呂から上がったのだ。長風呂をしてきたのにいまだタオル一枚で立つティトレイの姿を見て怪訝そうに。
「…驚かせてすまん…」
だが、風邪を引くと言おうと…と本当にすまなそうに言うものだから。
「あぁ…もぅ、大した事じゃねぇから気にすんな!オレは風邪なんかひかねぇって」
いつものようにニカ、と笑って流すと、微かに彼が目を細め…淡く微笑んだ様に見えて思わずぽぅ…、と見詰めてしまった。
見詰めてくる意図が掴めなかったのか、ゆるりと視線をずらし…ティトレイの手に握られていたものに目をとめた様だった。
「…それは…?」
「うん?これはなぁ…っタンマ、やっぱ寒くなってきたぜっ」
パフッとベッドにダイブして毛布の中に潜り込む。首だけだして、何事かとこちらを見ている彼にちょいちょいと手招きする。
「ヴェイグもその格好じゃ人のこと言えねぇぞ。こっち来て暖まれよ」
これ、何だか教えてやるからさと促すと、彼は躊躇しながらも下着と上を一枚だけ羽織ってそろりと隣に潜り込んだ。ふわり、と鼻を擽る微かな甘い香りに鼓動を早めながらも、約束通り説明を始める。
「よっし…これはな。カンザシ、っつぅ…昔の時代の髪留めなんだ。子どもの時に偶然手に入れてさ」
ほらよ、と手渡すと彼はそれを物珍しそうに光にかざしたり撫でたりして…やはり細工の細かさに感心しているようだった。
「…なぁ。オレは使わないからヴェイグが使えよ、それ」
ゆる、とあげられた目線が絡む。
瞳に「大切なものなのに良いのか?」と問われている様な…感じがする。あくまで感じだが。
こう至近距離で真っ直ぐ見られるというのはティトレイも照れ臭い。
「っ…オレは、使わねえし。…それに」
名前は忘れてしまったが、このカンザシに埋め込まれている貴石には『幸運を授かる』力があるらしい。
「だが…」
「お前には幸せでいて欲しいんだ」
そのままを伝えると、彼は何度か目をしばたいて手に持ったそれを改めて見つめた。
ありがとう、と聞こえるか聞こえないかくらいの声が聞こえて…嬉しくなる。
「へへ♪…そだ、早速つけてみろよそれ」
あぁ、と体を起こして、ヴェイグは髪をまとめ始める。さらさらとこぼれ落ちてなかなかまとまらない様子に手を貸そうとする…が
「…これどうやって使うんだ??」
ヴェイグに髪を押さえてもらい、カンザシを色々な方法でさしてみるがもう少しの所で固定されない。
「もうちょい…あ!!」
「っ…」
手が滑り力が入ってしまった。ヴェイグの体がぴく、と跳ねる。
カンザシのとがった部分で彼の首筋を傷付けてしまったのだ。
「ああっ!!悪いっ!!」
「…大丈夫だ…」
指先で傷を撫でるヴェイグ…やはり痛むのか目が細められて。
─ドキ
ふいにその表情が情事中のヴェイグのそれと重なり…思わず彼を後ろから抱き締め首筋に口付けると、銀色の髪が流れた。
「ティト…、っ」
傷口に舌を押し付けるとふる、と彼の体は震えて。
うゎ、ヤバイ…
「…なんか…すげぇやらしー…」
ぺろりと血を舐めながら、彼の自身へと手を伸ばす。うつ向いた彼の表情は本当は銀色で遮られ窺い知れない。大した抵抗も無いのを良いことに本格的に扱き始めた。
「ッ、くぁ…あ」
すぐにもクチュクチュと先走りの蜜が音を放つ。お互いに前回よりも切羽詰まるのが早い…血の味と傷を舐めるという行為がこれほどに興奮するとは。
腕の中で切な気に震える体に爆発寸前の猛った自身を押し付ける。
「っ、ティトレイ…ッ」
首を捻り、「早く」と肩越しに見つめて来る潤んだ蒼がティトレイを更に追い詰めた。
「すまんヴェイグ…っ手加減できそうねぇ」
背中を押し倒して、尻まで伝い流れていた蜜を指に絡ませ蕾を性急にほぐし始める。
「う…ふ、んん…」
体をひく付かせながらも隣の部屋を気遣ってか、シーツに顔を埋め声を押し殺している。こういうことになると、余計に声が聞きたくなるのは男の性、とでもいうべきか。
「ヴェイグ…声、出しちまえよ…」
口元の手を優しく取り除きながら耳元で囁いてやると、うっすらと潤んだ瞳が開かれる。
「で、も…となり…ふ!」
言葉を遮る様に指をしこりを攻め、ずると指を引き抜き自身をそこにあてがう。先にくるであろう衝撃に強張る背中に覆いかぶさるようにして彼を一気に貫いた。
「!ひっ、…ぁあアッ!」
「っ、すげ…」
熱い体内ですさまじい射精感をやりすごし、反り返る彼の肉棒をゆるゆると撫でてやると連動するように内部が収縮する。
「ふっ、く…」
あやすように二、三度突いてやると彼の熟れ切った性器ははちきれんばかりに蜜をこぼしていた。
「ぅ、ごく…なぁっ、あ」
艶のかかった声で言われても。
「でも、っ…オレのことすげぇしゃぶってるけどっ…」
今日のヴェイグは前回よりヤバイ…それともオレが彼の魅力にあてられたのかな、なんて考えながら、いやいやをするように首を振る彼の背中にキスを落とし、激しく律動を開始した。
「!あぐ、ふっ…ぁあっあ!」
「や…ぅてぃとっ…ォ!」
すでに声をおさえることなど意識できなくなったヴェイグは、透けるような銀色の髪を散らしてティトレイから繰り出される律動を全身に受け止めて。
ほどなくして二人は絶頂を迎えた―――
隣からは規則正しい寝息が聞こえる。
薄暗くした部屋の中で、ティトレイは悩んでいた。
また、なんだか酷い抱き方をしてしまったんじゃないか…
ヴェイグだってまだなれていないだろうに、今日も性急に突き入れてしまった。文句一つ言わないから余計心配になる。
「…はぁ…、っ」
ふわり、と突然頬に温かいものを感じる。寝返りをうったヴェイグの唇が、頬に触れたのだ。
小さなことなのにドキドキしながら布団をかけ直してやると、唇が微かに言葉をきざんだ。
「…、ィト…い…すき…」
「!…ヴェイグぅ…」
ああ
愛しくて、
たまらない。
不安が一気に吹き飛んだような気がして。
「明日、カンザシの使い方ちゃんと勉強してくるからな…」
きっときっと、似合うはず。
自分のプレゼントしたカンザシをつけたヴェイグを想像しながら、ティトレイは嬉しそうに目を閉じた。
2005/1/23