拳の向こうに



「…、〜♪」

「あれ…ティトレイさん、ずいぶんご機嫌ですね?」

「へへ…なんかさ、や〜っとヴェイグとわかりあえたっつうか、な」

「ふぅん…なんだか男の人って、少し羨ましいな」





ヴェイグさんが、クレアさんの事で暴走してから二人の殴り合い…最初はどうしてこんな事、って思ったけど。顔に青痣作ってまで、ヴェイグさんのこと気に掛けて…男の人の友情って、すごい。

…でもティトレイさんの方が痣が凄いのって…ふふ。

とにかく。…嬉しそうな顔。男の勲章だから手当てはいらない、なんて言ってるけど…やっぱり傷の手当てはしなきゃ。ヴェイグさんも帰ったら…唇切れてたし。
救急箱を取り出した時、町の人が部屋に突然入って来て。

「キュリア先生はいるかい?」
「何か、あったのか?」
座っていた椅子をくるりと回転させながら問掛けるティトレイさん。どうやら外で怪我人が出たらしい。

「私も…医者です。私で良ければ」
「っありがたい!!こっちです、妻を頼みます」

「アニー、俺のは良いから早く行ってやれよ」
「はい…ごめんなさい。これを」
ヴェイグさんにも手当てをしてあげて、と携帯用の薬箱をティトレイさんの胸に押し付けて、私はその部屋を出た。


……ちゃんと手当て、出来るといいんだけど。




───

「ん〜…ヴェイグのやつ、何処ほっつき歩いてんだぁ?」

暫く部屋で待ってみたものの、アニーもヴェイグも戻らない。ユージーン達は食事の準備に取り掛かっている。ふと宿屋に帰ってから直ぐに出かけてしまったヴェイグが気にかかり、街に出て探すことにした。

丁度夕食前だからだろうか、外は人が多く行き交っている。彼のことだから、何処か静かな場所にいるのかもしれない…ティトレイは人混みをかき分けて、町の奥へと入っていった。



人通りもだいぶ少なくなり、日もあっという間に落ちてしまった。

「……冷えてねぇかな…ヴェイグのやつ」

息が白い。
ブル、と震える体を抱えるようにして辺りを見回してみる。しかし思い描いているような姿は見当たらず。
…いや、噴水から出る水の陰に見慣れた後姿が見える。見付けられたのがなんだか嬉しくて、つい笑顔がこぼれてしまう。回り込んで脅かしてやろう。

…そろ

……そろそろ

…「ヴェイ、…!」

冷たい空気の中。
夜空を見上げる彼の頬にきらり、と光るものが見え…声を詰まらせてしまった。向こうもこちらに気付いたようで。

「っ…ティトレイ、か」

慌てた様子でもなく頬を甲で拭き、こちらに顔を向ける。何て言い出したらよいだろうと視線を泳がせると彼の切れた口許に目が行った。

「あぁそうだ…これ」

アニーから渡されたものをちらつかせると、ヴェイグも察した様に頷いた。


この場では冷えてしまう。それに…何故ヴェイグが泣いていたのかが気になって。二人きりになりたい…そう考えたオレは、宿屋に戻らずすぐ近くのレストランへとヴェイグを引っ張っていった。


…夕食に戻らなかったこと、後でみんなに謝らないとなぁ…







夜仕様なのか、店内は昼間の時とは大分違っていた。明かりがしぼられ、ムーディな雰囲気が漂う。
テーブルも殆んど埋まってしまっている。と、ティトレイ達の姿を見付けて店主が声をかけてきた。

「お二人で?」

頷き返すと、席が一杯ということで特別に予約用の個室へと通された。適当に注文して、一息つく。

「…こんな部屋があったとはな」
「あぁ。今夜は予約が入ってないから特別に、だと」
部屋には壁際に大きなソファ、中央には銀の燭台が置かれたテーブルがある。予約殺到、なんて所には見えなかったがそれは置いておいて。
「ヴェイグ、顔見せてみな」

先にソファに座ったヴェイグの前に立ち少し屈んで覗き込むと、ヴェイグもティトレイを見上げるように顔をあげる。


あれ



ヤバイ…かも




─薄く開いた唇。やや下に向けられたため細められた眼。しかしその瞳はすぐにこちらを見上げて来て。


「…ティトレイ…」


──もう耐えらんねぇ…


「…お前の方が痣が酷い…」

出会ってからずっと
自分を惹き付けて止まないディープブルーの瞳が…あまりに近くて。

傷を確かめるという名目で彼の頬に添えた両手を、そっと引き寄せる。


「…!」


思っていたよりもやわらかな唇。触れるだけのキスをして…惜しみながら彼を解放する。
…あぁ、俺のバカヤロ……

─コンコン

「!!」
店長が戻って来たのだろう、慌ててソファに座り直すと同時にドアが開く。

「お待たせ致しました」

ヴェイグの顔を見るのが恐い。
…ちらと横目で盗み見たヴェイグは心なしか頬を染めていて。指先を唇に当てて、彼は物言いたげにこちらを見つめていた。




───



食事を終えてレストランを出る頃には、外はもう真っ暗になっていた。
宿屋までの道を、ゆっくりと歩き出す。

「…なぁヴェイグ。あん時さ…なんで泣いてたんだ?」

後ろから着いて来ていた足音が止みつられて振り返る。

「…分からない…でも、…安心…したからだと、思う。…ティトレイが、オレの心の氷を溶かしてくれた…」
今までの分の涙が、溢れたのかもな…なんて、普段あまり言葉を発しない彼が。

なんでだか分からないけど…無性に嬉しくて。

「ティトレイ…オレは」
「待った」

急に遮られて「?」と小首を傾げるヴェイグの側に寄り肩をポム、と叩く。

「…まぁ。さっきのが俺の、お前への気持だから」
「……」
「んじゃ、さっさと皆のとこに戻ろうぜ!!」

照れ隠しの、宿屋までの競争開始。


後は野となれ山となれ、だ!!





勝手に走り出したティトレイは、告白を受けたヴェイグがどんな表情をしていたのか分からなかっただろう。


「…ティトレイ…オレは…」



ゆったりと歩き出した、ヴェイグの襟元に隠れていたザピィだけが
ヴェイグの答えを聞いていた。






その後

仲間の作った夕飯をすっぽかした二人は

暫く連続で食事当番を押し付けられた…とか。






作成日不明。
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