束の間、求めて
ああ 銀色の天使様
せめて
今、この時だけは…
あれから一月が経った。
まだ完治とまでは行かないが回復したサレは、太い枝に腰掛け幹にもたれる様にして、景色を何ともなく眺めていた。
──見覚えのある、いや、あれから片時も忘れることのなかった、青年の姿を視界に捉えるまでは─
───
町から少し離れた森の中へ
ヴェイグは町で知り合った少女とともに、彼女の飼う仔犬探索に来ていた。
幸い、直ぐに見つかったのだが…
「お兄ちゃん、どうもありがとう」
「あぁ…すぐに見つかって良かったな。…戻ろうか」
大切そうに仔犬を抱える女の子の手を取った
次の瞬間
「!!」
「キャッ!!」
背後に突如現れたバイラスの鋭い爪が…ヴェイグの背中をかすめるのと、彼が少女を突き飛ばしたのはほぼ同時であった。
「早く逃げろ!!」
恐怖で固まっていた女の子が弾かれたように逃げ出すのを確認して、すぐに体勢を立て直すが…相手の方が速い。咄嗟に地面に突き刺した刀身で、斜め振り下ろしからの薙ぎ払いを流す
…はずだったのだが。
「?!」
ガクンと膝が折れる。体に力が入らない。
間に合わない…!
身を襲うであろう衝撃に目をきつく瞑り身構える
どしゃり
やけに生暖かい風が頬を撫でた他には
衝撃は来なかった。
何が起こったのか分からず目を開けると、そこには無残にもバラバラになった肉塊と…
「…サ、レ…?」
見上げた先には感情の灯もらない、冷ややかな瞳。
「…こんな雑魚に」
傍らに転がる肉塊をチラと見遣り
立膝で剣にすがり付く様にして体を支えるヴェイグに視線を移す。
「ヴェイグ…君はボクが殺すんだからね…」
ゆる、と視線を落としたヴェイグの顎をくいと持ち上げて。
唇を奪おうとしたのだが
「…?」
ヴェイグの瞳の焦点が合っていないのだ。異変を感じてさらりと彼を観察する。
…浅く繰り返される呼吸。触れている肌からは異様な熱が感じられ、体にも力が入らない様子だ。
彼の背後にまわり背中の傷を確かめる。
「…ふぅん」
バイラスには厄介な毒を持つものもいる。その効果は、死には到らないまでも相手の動きを止めるには十分。深い傷ではないが、爪から分泌された毒が入り込んだのだろう。
…放っておくのは危険だ、と判断したサレは自分の持ち合わせにパナシーアボトルがあったのを思い出す。
体力を失い、ついにくず折れる体を支えてやりながら、唇を耳元に寄せ囁く。
「助けてあげるよ、ヴェイグ…」
お礼はきっちり貰うけどね…と付け足して、彼はやっと手に入れたとばかりに
歪んだ笑みを漏らした。
───
「ん─…ん」
体が熱い。喉が乾く…
口の中を何かが這い回る感触に意識を戻したヴェイグは、目の前の人物に愕然とした。
「!!」
「ん…気が付いた?」
ちゅ、と音を立てて離された彼の唇は
どちらのものとも分からない唾液をひき妖しく艶を放つ。
「な、に…」
「ボクがね、介抱してあげてるんだよ」
「あぅ!」
ぐちゅり、と下半身に挿入られた指が回転し内壁をすりあげる。
中途半端に熱を持ち覚醒している体は、痛みでさえ悦い方向に拾い上げてしまう。
「飲めば一発で良くなるんだろうけど…」
快感からかサレへの恐怖からか。
微かに震える彼の体を愛しげに見詰めながら、ボトルのトロリとした中身をヴェイグの起立した自身へと塗りたくる。
液体の冷たさに息を詰まらせ、それすらも快感としてしまうのが嫌だというようにふるると首を振る彼の自身をきつく戒め
くしゅくしゅと乱暴に扱く。
「それだけじゃつまらないでしょ…?」
「あ、…あっ…!!」
仰け反った白い咽頭に舌を這わせながら、指を引き抜くと同時に熱い肉棒を突き入れる。
衝撃にビクリと体を跳ねさせながらも、サレ自身をずぷずぷとそこは咥えこんでいった。
内部の締め付けと熱さに思わず吐息してしまう。
「…は…」
「ふ…ぅ、やめ…」
熱に冒されているといえ、目尻を赤く染めて耐えるヴェイグの色香は相当なものだった。
ちらりと緑色の髪を持つ人物が頭に浮かび、それをかき消すように
「うるさいよ。卑らしく咥え込んでるくせに」
「ひ、ぁあん!…っあ、アッ」
戒めを解いて、最奥に欲望の固まりを叩きつけ
毒と熱に浮かされた彼の体を激しく揺さぶりたてる。
果てる瞬間、一筋の涙とともに彼の唇から零れたのは
「…ィ…ト…」
「……っ」
ああ
銀色の天使様
どうして
こうも自分は不器用なのですか
何かが、こみ上げてくる。それを必死に抑えようと、唇を噛み締めた。
「は…、…サレ…?」
余程苦しげな顔をしていたのだろうか。かすれた声とともに伸ばされた彼の手が、頬に触れる。
慣れない、優しい感触に弾かれたように顔を上げると
彼は困ったように
「…なぜ、お前がそんな顔をするんだ…」
「……」
答えられなかった。
自分の中の感情を、認めたくなかった。
無理矢理体を押し開いて、汚い欲望を注ぎ込んで
それで、完璧に
完全に嫌われてしまいたかった
それなのに──
「!!」
不意に手を引かれ、ぽふりとヴェイグの体に抱き付く形になり
繋がれたままの体は互いに擦れ合って甘い吐息が漏れる。
「ヴェイ…」
行動の意図を問掛けようと開いた唇は、彼のそれに塞がれて。
「…すまない…」
──ズキ
今にも崩れ落ちそうな心を、包みこむように首に廻された腕…そのまま、緩く抱き締められた。
その腕の中は
酷く
酷く、
あたたかくて
「…今、だけは…お前と…」
叶わぬ想いに
涙が
溢れた
2005/2/10