果たされぬ約束



蒼を纏う、麗しい青年


彼のその誘惑に


一体誰が


抗えるというのか―







*******







「…という訳だ。一人が組員を装い、一人が捕獲されたヒューマとして共に正面から内部に侵入してもらう」

「じゃあ組員は…ユージーンが一番怪しまれないネ。残りの四人はいつ??」

焔を彷彿とさせる髪色の少年からの質問に、一同は資料から眩い金髪の王へと視線を向ける。

「そうだな。侵入班からの合図が有り次第、突入して欲しい。混乱に乗じて人質を助け出す。それまでは待機だ」

「あの、そのヒューマになるのは誰なんでしょうか…?」

控え目な声に、王はちらと少女に視線を移し…青年の肩に手を置いた。
蒼がかった銀の三編みを揺らして、青年はゆるりと王を見上げる。

「重要な役目だな…それは、彼にやってもらう事になっている」

「なっ、何でヴェイグなんだよ!!」


親友兼恋人を危ない役目にするのが心配でたまらないのだろう。
ガタと椅子を飛ばして食い掛る緑髪の青年を、隣に座っていた艶やかな黒髪の女性が制する。

「…適任よ。そのグループの頭は、特に銀髪が好むと聞くわ」

「…その通りだ、ヴェイグならすぐに頭の所へ通されるだろう。隙を突いて、息の根を止める事も容易だ」

「〜、…でも!」

「心配するな。俺が付いている」

「…ティトレイ…」

黒豹の体を持つ男の頼もしい言葉に、指名された青年も頷いて彼を宥める。
…暫しの沈黙のあと、渋々といった感じで彼は納得した。


「では、質問がなければ解散。各自、今夜に備えてくれ」




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最近、バルカ地方でヒューマ、ガジュマを問わず女性の誘拐事件が多発している。

組織だった計画的な犯行に王国もほとほと手を焼き、犯行グループの本拠地をなんとか割り出したものの
内部構造が謎であることと、人質が多く手が出せないのだという。


そこで、これ以上被害の拡大を防ぐ為に
少数精鋭を送り込み、人質の解放と犯行グループトップの抹消を同時に行うこととなった。

招集されたのは、チームワークと個人の戦闘能力の高さで選ばれた六人。ヴェイグ達であった―



濃霧で視界が全く効かない。
バルカ地方の外れ、深い森の中。

敵地へ共に歩く、この青年が王から与えられた役目は


「…大丈夫か?」


「…その…自信が、無い…」


そう、グループの頭
―男性ということ以外、ヒューマかガジュマかもはっきりしないのだが―
の気を引き、拉致されている女性達を救出する時間を稼ぐ、という重要な役目だ。
グループが着ているという装束を纏い、自分は中の構造を把握して待機班に連絡、それから彼を回収して脱出ということになっている。
人質たちの解放は、仲間達に任せればいい。

「余程、内部の構造が複雑でなければ…時間は掛かるまい」

「俺次第…か」

「…案ずるな」

安心させようと不安そうに視線を落とす青年の頬を、優しく撫でてやると
何か言いたげに見上げてくる。

「…どうした」

「…いや…、何でもない」

微かに微笑みながら、逸らされてしまった深蒼の瞳
それを何処か惜しいと思っている自分に気付いた。

平静を装いつつも、改めて彼を観察してみる。


怪しまれない為の、女装。
普通男性がすれば体型の違いから直ぐに気付かれてしまうだろうが、体の線が細めなことと
彼を頭から包み込む透き通るような蒼のヴェールが、見事にカバーしている。
髪はいつもの通りだが、服はヒルダ一押しの「アオザイ」と呼ばれる異国の民族衣装だ。
下はシルクで出来たホワイトのハイウエストパンツ。
上はネイビーのベルベット生地に、ホワイトとグリーンの刺繍で描かれたリーフ柄が、グリーンのラメで縁取られていて豪華だ。

彼も元々整った顔立ちであるから、薄らと化粧されたかんばせも衣装に負けず申し分ない。



…、…何を考えているんだ、俺は。



「ここ、か?」

「…ああ、そうだ」

考えに浸っている間に着いたらしい。
軽く頭を振って邪念を取り払い、ヴェイグの手を後ろで縛る。

「少し緩めに縛っておく。身が危うくなったら手順は問わない、奴の息の根を止めろ」

「…分かった」

「それから…一言も喋るな。声で男だと分かってしまう」

コクリと頷く彼を押して、入り口へと足を踏み入れた。





「待て。何処の担当の者だ」

「バルカ地区A-Z担当の者だ。…見ろ」

背後からヴェイグの顎を掴み、くいと顔を上げさせる。


「こりゃぁ…」


ヴェール越しの蒼眼に、ヒューマである見張りが息を飲むのが分かった。
…ヒューマの中でも、彼が最も美しい部類に入るであろう事が改めて認識される。

「…っ」

掴んでいた形の良い顎がすっと引く感触に意識を戻すと、明らかにヴェールを上げようと動いている見張りの手を払い除ける。

「…触れるな。頭が先だ」

「!…お、おぅ。さっさと上へ連れて行け!」


───


「…助かった。有難う」

最上階への途中急に礼を言われ、一瞬何のことか分からなかったが…直ぐに理解した。

「見られて万が一…ということが有るからな。…最もお前の容姿なら、大丈夫だったろうが」

予想し得ない言葉だったのだろうか、彼はこちらを見上げて何度か瞬き。

「…アンタが、そんな事を言うなんてな…」

「……」

意外だ、という彼に何と返したものかとその瞳を見詰める。



……

ふいと視線を逸らされて我に帰る。
ヴェールで表情は窺えないが、触れていた彼の手の温度が少し上がった様に感じられて。

この若者は…照れているのだろうか。


柄にも無く、「可愛い」などと思ってしまう。
そんな事を考えている状況ではないのに。

周囲のヒトを惹き付ける何かを、彼は持っているのだろう。
現に自分は、彼に惹き付けられている…


「ヴェイグ」


蒼が、見上げる。


「…直ぐに、お前の元へ行く」


彼はゆっくりと頷き
縛られたままの手で、軽く俺の手を握り返した。



「…んっ、…ぁあ!!」

「…!」

目に入って来た光景に、思わず顔を背けてしまった。

ユージーンから組員へと引き渡され、暫く歩くと一際豪華な内装の部屋へと通されたのだが
椅子の軋む音と共に耳に入ってくるのは…女性の喘ぎ声。

「アイン様、新しい娘を連れて参りました」

アインと呼ばれた体格の良いガジュマの男は視線だけこちらに寄越すと、今の今まで抱いていた女性を用済みだとばかりに突き飛ばした。
無理やりつれて来られたであろう女性への酷い仕打ちに、思わず手に力が入る。

「こっちへ」

「はっ」

ぐいと背中を押されて
デスクチェアに腰掛けたままのアインの元へ、さやさやという衣擦れの音と共に歩み寄る。

「こいつはもう良い…地下へ戻しておけ」

「御意」

…?

…おかしい。
先ほど押し退けられた女性が、また彼の元に擦り寄っているのだ。
…彼女は、人質ではないのだろうか。

訝しく思い、連れ出される彼女を横目で追う。

「余所見をするな、青年」

「!」

いつの間にか、息の掛かる距離まで近付かれていて。

咄嗟に手の縄は解けたが
身構える間もなくデスク上へと叩き付けられ、巨体に組み敷かれる。

「ぅ…けほっ」

肺が圧迫されて、息が苦しい…

「…いつか、ら……っ」

「殺気も抑えられないか」

「っんぅ!」

少しでも距離をとろうと背けていた顎をぐいと戻され
ヒューマとは比べものにならないアインの長い舌が、咥内に滑り込んできたのだ。


っ、きもち、悪い…!


あまりの嫌悪に暴れて逃れようとするが
ただでさえ無理な姿勢、屈強な体躯に押し付けられていてはどうしようもない。

何とかこの状況から逃げ出そうと意識を逸らすと
厚くザラついた舌を喉奥までねじ込まれ、多量の唾液を流し込まれる。


「!!っふ…ぅぐ」


舌が邪魔をして吐き出す事も出来ずに、飲み下すしかなかった。

やけに甘い、それ。

ごくり、という音を聞いて男は心底楽しそうに口角をつり上げた。

「はぁっ…の…ゲス、が…!」

漸く口を解放され、荒い息と共に罵る…が、彼は楽しそうにクツクツと喉を鳴らすばかり。

「…そのゲスに奉仕したくなるとすれば…?」

「!!」

スリットから滑り込んだ手が、乱暴に下着ごとパンツを取り除く。






-----------




「ぁ…!」

すらりと伸びた脚の間、意思とは反対にとろけだす自身を擦られ、思わず腰が浮いてしまう。
頭に靄が掛った様にぼうっと…


…どうして

今、自分は…目の前の男の持つぬめる肉棒に
己の体が深々と貫かれるのを想像し…それを、待ち望んで─


「くっ…、ぅ…」


…なぜ、……こん…な…



……




抵抗の力が弱まったのを見てとるや、男は青年の体を解放し、静かに問うた。


「名は」


「…ヴェイ…グ…」


少し遅れて返るのは
まだ、青年の意思が完全に堕ちてはいないから。

催淫、自白効果のある体液をあれだけ飲ませてやれば…普通ならばすぐにでも行為に及ぼうとするのだが。
余程、意思が強いと見える…


──ガタンッ


…まぁ良い。それも時間の問題だ。
それに、たった今現れた新しい客人の相手をさせるのには、十分。


「やはり貴様か…アイン」

後ろから掛るのは忘れもしない声だ。何年も薄暗い牢屋にぶちこみやがって。

「ふん…前は世話になったな」

「懲りずにまたこの様な…。手口を聞いて、お前の事が浮かんだ…大人しく縄に」

「それは出来ない相談だ」

横たわったままの青年をぐいと引き起こし、見せ付ける様に深く口付ける。

「んっ…ふ」

「!!」

隊長さんが息を飲む気配が手に取る様にわかって面白い。
任務の際は感情を表に出さない人の表情が、明らかにこわばるのを見て
青年のことが余程大事なのだと確信する。

もう、ここも終わりだろう。


ならば…


───



なぜ、甘受する…?

いや落ち着け。
薬か何かを…

…、まさか

「飲ませたのか…!」

「ご名答」

瞬間、ヴェイグの体が浮いたかと思うと体に衝撃が走る。

「っ…!!」

持ち堪えるが、彼を乱暴に叩き付けた張本人は既に窓の外。

「彼を手放すのは惜しいが…これ以上ここにいる訳にはいかんのでな。…精々楽しんでくれ」

「待て!!」

「…ぅ…」


ベランダへ向いていた意識が、腕の中の青年に引き戻される。


「ヴェイ…」


目を、見張る。


固く結ばれている事の多い唇は緩み
熱でうるんでいるだろう瞳は
それを恥じるかの様に閉じられ。

呼吸が整わないのか、腕の中でみじろぐ青年の背中を撫でてやれば、うっすらと瞳を覗かせ熱い吐息をもらす。


するりと
先をねだる様に首に回された彼の腕を、引き離すことが出来なかった。

これでは奴の思う壺ではないか。

でも。


…せめて
この青年が、正気を取り戻すまで


この腕の中で愛してやることが出来るなら。


彼が
その事を全く覚えていなかったとしても。


それでも、構わないから─



───


褐色の首筋をざらりと舐めてやれば、青年の体はふると震えて。

腿を跨がせる様に膝立ちさせ
前後を隠す布の下に手を滑り込ませて、彼自身をくしゅくしゅと弄んだ。


「っ、ぅ…ふ」


声を漏らすまいと、首筋に顔を埋めて必死に抱き付いてくる彼が酷く愛しく感じられる…

だが声を抑えるということは
理性が徐々に戻りつつあるということ。


まだだ…もっと、彼を乱れさせてみたい。


後ろも溶かして

「ふぁ…!」

やらなければな…?


「ヴェイグ…腰が揺れているぞ」

「ぅんっ…!」

一気に二本の指を突き入れても、痛がるどころか
出ようとする指を逃すまいと締め付け、押し付けてくるではないか。


慣らさずとも
しとどに潤う、そこ。


全く…


「普段からは、想像もつかんな…っ」



─ずぶぅ…!!


「!!!ぁは────っ!!」


腰を掴み下げ一気に奥まで貫くと、声にならない悲鳴を上げて彼は背を弓なりに反らせた。


「はぁっ…は…」

衝撃で弾ける様に白濁を飛ばし、ぐったりとこちらの胸に寄りかかって息を整えている間にも
こねる様に突いてやれば、彼は腰を浮かせ悦がった。

「ぁ…っすご、……いっ…」

快楽に歪む顔さえ
美しく。

「お前の、為だ」
「あぐ…っ!」

繋がったまま肩を押す様にして押し倒し
前立腺あたりをグイと突き上げてやる

「っあ…ぁ!」

体が跳ねるほどの快感に眉根を寄せ、自身はだらしなく蜜を垂らし
血をにじませ限界を越えているのにも関わらず
後孔は収縮を繰り返し、更に奥へと誘い込む様にユージーンを締め付けた。

「っ…ヴェイグ…」

─ずっ、ズクン!

「んっ、くぅ…!!」



何度目かの吐精。
激しい締め付けに
彼の中をこれ以上、自分のもので汚したくないという思いから
直前に引き抜いて、達した。




───




…何だ…

…頬に、ふさふさしたものが…

「…!」

「目が覚めたか」

真上から、聞き慣れた声。ふさふさしていたものの正体が分かってほっとしたのも束の間。

「…何故、ユージーンの腕の中にいるんだ?」


…返答がない。
もう一度尋ねるのも何となく気恥ずかしくて、ゆっくり思い出してみる。

アインになにかされた所までは、何と無くぼんやりと覚えているけれど。

…体が酷くだるい。

「…奴は取り逃がしたが、人質は皆無事に解放出来た」

「…そうか、良かった…」

「ヴェイグ」

見上げると、額にキスが落とされて。

「…ユージーン…?」

「…済まない。…忘れてくれ」


微かに、語尾が震えているのは気のせい…?


「…ありがとう」

「……あぁ」


何故だか分からないけれど、彼に感謝しなければならない気がした。


気付けば自分を包み込んでくれている、大きく暖かい腕





とても、安心して





どこか、懐かしい







それが、父親という存在を思わせ



恋しく思うことなど、ないと思っていたのに



彼の首に腕を廻すと

優しく、抱き締め返されて


自分の本当の父親も
こんな風に抱いてくれた事があったのだろうか


そんな事を考えたら



少しだけ、視界がにじんだ。






2005/3/12
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