つきのよるに



"しんぱいかけてごめん"

"ビャクレンはさっきまで いっしょだったけど ねむいから かえるって"

"だからきっと、さわったのはビャクレンじゃない"

眠いからって…王子さん一人にしちゃ危ないじゃんかよあいつ…。

…待てよ、あいつじゃなかったらさっきのは一体…

そう思いながらも取り敢えず頷くと、それを見た王子さんは更に文字をつづる。

"よく おどろかなかったね"

"くやしいな"

「…オレもそう思った。つか悔しいってオマエ…で?」


"ひとり で およいで いたのは"


…そこまで書いて、手が止まった。指先が微かに震えている。


「…王子さん?」


どうしたんだ



顔を上げて見ると、彼の蒼瞳が躊躇の色に揺れた。
水面の模様が反射してゆらゆらと互いの顔を照らしている。

「…ま、言いたくねぇならいいさ」

聞かれたくない事は誰にだってあるよな。そう思って湖へと視線を向けようとした一瞬

"じゆうに…"

確かに、彼の唇はそう動いた
その後はよく解らなかったが、聞き返すのもなんだと思って立ち上がる。


「…戻ろうぜ。ちゃんと寝ろよ」


此方を見上げ頷いた王子さんの手を引いて立たせたら、かなり体が冷えてやがって。
そこまで気が回らなかった自分に舌打ちして、王子さんを無理矢理風呂場へと連れて来た。
よく温まる様に言い聞かせる。


…なんでこんな世話焼いてんだろうな、オレ。




別れ際に
"今日の事は誰にも言わないで欲しい"と王子さんは言った。


特に言いふらそうとは考えてなかったから頷くと
安堵したらしく、小さく笑んで「指切り」の形の手を差し出してきて

オレは少し面食らいながら小指を絡めた

秘密にする程の事なのかと正直思う
ただ単に水浴びというか、遊んでただけだろ

待てよ…ビャクレンがあれじゃ心配だよな


「なぁ、王子さん」


小首を傾げた彼の手のひらに、指先で文字を書く
軌跡を真摯に目で追って、顔を上げた王子さんはまさかと驚いた様子で見詰めてきて

自分がどんなに普段口に出さないような言葉を書いたのだろうと、今更思い知らされる


「な…何だよ、嫌かよ」


気恥ずかしさから声を荒げると
慌ててふる、と首を振り今度はオレの手に指を滑らせた

…あ、ちょっとくすぐったいんだな、これ。

するするとなぞられた文字を頭の中で文章にしていく

つづられた言葉、素直に向けられたその好意に頬が熱くなって

"ありがとう"

そう唇を動かして 
言葉が追いつかないけれど
なんつーか本当に 綺麗に笑ったんだ


こんな王子さんの顔、見たことがない
そうさせたのはオレなんだって思ったら、なんか嬉しくて






とん、と肩に王子さんの手が触れた

少し別のところに行きかけていた心を慌てて引っ張り寄せる

"ロイは入らないの?"

「え…お、オレはいい!さっき入ったから」

さっさと入って早く寝ろよ、じゃーな!

そう言って
勢いに押され半ば唖然とした王子さんから逃げるように背を向けた


本当は冷えてたし、入りたかったけど
これ以上王子さんの顔見てるのは、なんだか落ち着かなかったんだよ












手のひらに書かれた言葉が逃げて行かないようにと

同じ様に手を握った事を、二人は気付いていないようで






"やくそくしてやるけど こんどはオレもさそうことがじょうけん"

"ありがとう すごく うれしい"

"きっと きっと ロイをさそいにいくよ"






部屋に戻ってもまだ
頬が 心が 彼の触れた部分が火照っている気がして


結局その夜は 眠れなかった









それ以来
人魚が二人に増えたと
少女達がまた 噂をしたとか しなかったとか。







AFAIKさんの「かじかむ指 染まる頬 なんて、らしくない」というお題を元に書きました。
美少年が二人、月明かりの下で、なんて個人的にかなーりの萌シチュですとも。


2006/5/5

BACK