願わくば




『この国に 王子など』

『さっさとどこぞの国へ 婿にやってしまえば良いものを』

『あの様なモノ 無用の長物以外の何者でもないと言うに』


罵りの言葉を耳にしても
若き王子は穏やかな微笑みを絶やさなかった

元老の圧力に悩む両親に知れれば余計な負担を掛けてしまう

己が我慢さえすればよいのだと
王子は幼いながらに考えた

彼らの心無い言葉が無垢な心に突き刺さり
どんなにつらくても
寂しくても
けして涙など見せる事なく




代々女王が統治するこの国に産まれた男子


王子は、その影さえ家系図に残されない存在


王子の母親である現女王アルシュタートは、その銀の美貌と人柄、
先代と打って変わった善政を敷いた事により、民から大いに信頼と尊敬の念を得ている
そして貴族の有力者達の中に熱狂的な信仰者を出す程の人物だった


だが、どうだ


女王の夫を決定する為に行われる闘神祭で優勝したのは、

代々勝利して来た二大有力貴族どちらでもなく、突如現れた異国の剣士だったのだ

しかも男は代理を立てず、自らの腕だけで勝ち取った

男が女王の夫となり、同時に女王を守る騎士長となると、彼らはいよいよ面白くなくなってきた

女王は男と協力し貴族の利にある法を次々と民寄りに制定し直していったのだ
異国の男は民からの厚い人望があり、何により最高権力者である女王がいたため貴族達は排除もままならなかった


彼等にとって

その男のなんと、忌々しい事か

憎々しい事か


その何処の馬の骨とも分からない男の生した子だというだけでも許せない

…いや

“ただの”王子であれば彼らとて別にいようがいまいが関係など無かったのだ



しかし王子は



そんな彼らの神経を逆撫でし

怒りの矛先を向けられるには十分過ぎるほどに

皆が焦がれてやまないアルシュタート女王の血を色濃くその身に受け継いで産まれて来たのだ





一人の男が
追い詰められた少年の頬を捕える

『その 白は 陛下のものだ』

陰口ではなく
彼らはついに

その歪んだ感情を
罪の無い王子へと向けた


異様な雰囲気に
ついに恐れの色をにじませた瞳を覗き込んで彼らは口々に言う

『その 蒼も おまえなどが持って良いものではない』

『この 銀も アルシュタート様のもの』

別の男が背後に回り羽交い締めると、やっと抵抗を始め身じろいだ少年の銀髪へと顔を埋める

少年は文武共に秀でていたが

多勢に無勢

卑しく体を這い回る男達の手に
少年は音無き悲鳴をあげる


『嫌だ、と声に出して仰って頂ければすぐにでもお止めいたしましょう』

『無言は肯定と受け取らせて頂きますぞ、はははは』


王子は喋る事が出来ない


彼らは何処からかもたらされた、王家にしか許されていない秘密を知っていたのだ


少年は悔しげに涙を浮かべ

桜桃色の唇を噛み締める


それが男達の行為を更に煽る事になるとも知らず


男達の目は

徐々に色付き始めた王子の白肌に釘付けられた


もともと性の判断に迷う容姿

無音であることも相まって

"それ"は独特の魅力を持っていた


『陛下もこの様に…』

『あぁ…』


男達の目の色が変わる


『殿下もお役に立てるではありませんか』

『お忙しいアルシュタート陛下の代わりに』

『私どもをその体で慰めて下さると』

『あなたはその為に産まれて来られたのだ』





この人たちは

なにを言っているのだろう


意識とは裏腹に上がって行く息と体の熱
異常な状況に王子はただ愕然と

頭の中で 逃げろ 逃げろ と声が響くけれど…――












「───…い、おい!」

「―…!」

「…王子さん?悪い夢でも見たのか」


ロイは
酷くうなされていた様子を見兼ねて起こしたのだと言う

曖昧な微笑みを浮かべ頷き
王子はベッドを共にするロイの胸へと擦り寄った


(幸い声が出ないから
上言の心配はないけれど


とうに、忘れたと思っていた──…)






「…、…寝ろよ。もう平気だから」


考えに沈んだ額をコツン、と軽く小叩かれ意識を引き戻された

彼は何か他にも言いたげだったけれど
それだけ言うと、黙って抱き締めてくれた


──…あたたかい











やがて


腕の中の少年が静かな寝息を立てるようになると

ロイは寄り添っていた体をそっと横たえてやり

ベッド際にある窓から

雲一つない星空を見上げた




(悪夢を食べるっていう、バクになるなんてことは出来ねぇけど)



せめて


眠っている間だけでも
安らかでいてくれればいい



それさえも難しいなら────…





願うなんて
ガラじゃないと思いながらも


地上を生きる物たち全てに等しく落ちる

仄かな星明かりに眠る少年を

ロイは飽く事なく見詰めていたという









願わくば


『眠れぬ夜にも、星の光があなたを照らしていてくれますように』






そしてコイツにも

“皆と同じ”星の光を。






AFAIKさんから
『眠れぬ夜にも、星の光があなたを照らしていてくれますように』というお題をお借りして書きました。
捏造もいい所ですが、ロイには王子の傍にいて欲しい。

2006/5/17

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