その男、恋煩い中につき
容赦無く突き込まれる無駄の無い太刀筋
引き締まった体、派手ではないが人目を引くには十分な顔立ち。
全てを斬り伏せんと
鋭く光る軌跡を繰り出す鷹の様な男を、どうしても目で追ってしまう。
「─…ス、ゼロス!!ボサッとしてんじゃねぇ!!」
「─んな…!!」
聞き慣れた声に意識を戻すと同時にドン、という衝撃に襲われ。弾かれた体はいとも簡単に背後の木へと叩き付けられる。
「かは…ッ」
く、そ…当たり所悪すぎ。
しめたとばかりに襲ってくる柳みたいなバケモノへ構え直そうにも、思ったより余裕が無くて。
「!!ゼロ」
─ドスドスドスッ
「ッ!!ぐぁああ!!」
右手が、体中が、
焼ける様に熱くて
よりによってあの人の前。
へっ、
カ ッ コ わ る…
薄れ行く意識の中
自分をかばう様に広がった闇色と鳶色が、ぼんやりと見えた気がした─
───
─コン、コン
控え目なノックの音に、意識が浮上した。
「どうぞ、入っても良くてよ」
あぁ…リフィルせんせの声…
って事は俺さま生きてる?
「…命に別状は無いわ。あなたの応急処置のお陰で、治療も巧くいきました。でも暫くは安静にしていないと」
応急処置?…先生でもない、俺でもない、とすれば治癒呪文を使えるのは
「…そうか」
ただ一言。
感情の窺えない低い声で。
やっぱり…彼だ。
「少し休んではどうだ?付きっきりだろう。…後は私が看ている」
「えぇ、そうね…そうさせてもらいます」
何にかあれば隣にいますから、と。かたん、という椅子の音と、遠くなる気配。
待って先生、彼と二人きりになんかされたら…
─バタン。
そんな心の声も虚しく、ドアが閉じられた。
「…起きているのだろう?」
「……」
いや、起きてないです。
お願いだから一人にして。
ダサ過ぎて、凹んでるんだから。
まさか
「貴方に見惚れてました」
なんて言える訳がねぇ。
狸寝入りに徹しようと唇を結んだのがバレたのか、呆れる様な、ホッとした様な溜め息が微かに聞こえて。
「…あれが、酷く動揺していた。後で声を聞かせてやってくれ」
…ロイド君が?
声掛けてくれたのも、彼だっけ。
「私も…」
え…?
少し気配が近くなった気がする。…私も、何?
気になって、少しだけ目を開けたら…映ったのは鳶色の髪と瞳、闇色の外套。
ああ、気を失う寸前で見えたのはこの人だったんだ、と。
「神子」
そっと伸ばされた手に頬を優しく撫でられ…思いの外温かくて、思わず頬が緩んでしまう。
「…人を見るのは構わないが、もう少し、外れていれば…いくらお前でも危なかったのだぞ」
「っ…」
見てたの、バレてるし。
「…あんたが、わりぃんだよ」
いつの間にか、俺さまをメロメロにしちゃったあんたが。
陰からいつも守ってくれる、カッコ良すぎるあんたが。
「…フ」
何を考えてるのか、みすかされている様な気がして。
「なんだよ…っう」
頬にあった手が首筋を通り、肩口に触れた時に激痛が走った。
「痛むか」
「まだ…な…。あの時、どうなったんだ?」
「…お前の体を、何本もの鋭い棘が貫いたのが見えた」
…よく生きてるな、俺さま。
体中が熱かったのは全身を貫かれたからだったのか。
「…正直、駄目かと思った。守りきれず…すまない」
彼の声色が変わった。
心配してくれたんだ。凄く。
それがたまらなく嬉しくて。
「…あんたさぁ…」
さっきまでガキみたいに意地張ってた自分がバカみたいだ。
勝手に見惚れていただけで、悪いのは俺。
敵の数が多くて、クラトスは女性陣をかばいながら戦っていたのだから、仕方ない。
…なのにこんなに真摯に謝ってくるこの人が、好きでたまらない。
つか、愛してます。
…そう口に出して伝えられたら良いのだけれど、そんな事をしたら。
俺さまこの人にめちゃめちゃに愛されて、暫く立てなくなっちゃうから。
「…じゃあ、今日はずっと俺さまの事看ててくれる?」
「…御易い御用だ」
「ん…」
痛む体をなんとか動かしもう一人分のスペースを何とか作り出すと、彼はその意図をくんだのか、ぱちん、と外套の金具を外してベッド脇へとそれを無造作に放った。
「体に障っても知らんぞ…?」
「俺さまが我慢できる性質じゃないの、知ってるっしょ?」
構わないから、と伸ばした俺の手をそっと包みながら、やわらかく微笑んでくれる。
─とくん、
…あぁ、その顔。
「神子」
その呼び名は嫌だ、と視線を返せば耳元へ唇を寄せて。
「…、…っ」
こんな近くからあんたの声で囁かれたら…俺さまがどうなるかなんて、わかってる癖に。
ぎし、と二人分の体重を受けてベッドが軋むと覆い被さる様にして口付けられた。
最初から舌を絡め取られる濃厚なキスで息があっというまに上がる。
「ん、ん…ッ…はぁ」
鳶色の髪の合間から覗く同色の瞳…ぁ…クラトスの野郎、目がマジだ。
こりゃ明日も動けないかなぁ、なんてぼんやりと考えながら、包帯の上を滑る様に撫でる手に息が詰まる。
「ッ…お手柔らかに、頼みたいんだけど…っあ」
「今更だ。…泣くなよ」
「…!」
その少し後、隣の部屋では
「あの二人…あれ程安静にしろと…!」
リズミカルに軋む音とくぐもった声を漏らす壁を睨み付けながら、九人中最凶と言われるクールビューティが杖を握り締めていた。
後日。
二人に増えた怪我人に、一行が更に足止めを食らってしまったのは言うまでもない。
2005/4/29