星空ランデヴー




「っ…」

体が、熱い

いや…疼くと言った方が、近いかもしれない



「…、またかよ…」


駄目だ、眠れない


背中から体へ広がるこの感じ

…出るか。
じっとしてるのはツラいし…


隣の寝具で寝ているがきんちょを起こさないように。

ダルい体を起こし、身近にあった桃色の上着をひっかける様にして、俺は部屋をあとにした。










「…はぁ」


ダメだ、眠れない


なんでだろ、今日も沢山の魔物と戦って疲れてるはずなのに。

少しだけ体を起こすと、二階部屋だけにある低めにつけられている窓から外の様子が少しだけ見えた。

見えるのは街灯だけで、動くものはない。

とくに目を引くものも無く。
ふ、と軽く溜め息をついて、寝なおそうとそこから視線を外そうとしたら

ちらりと、赤い影

確かに…見間違えるはずがない
あれは…、何処に行くんだ、あいつ


言いしれぬ不安に駆られて、俺は直ぐ様寝具を下り上着をひっつかんで部屋を飛び出た。













もつれる足を懸命に動かして、なんとか外へと走り出す

何処か、

「はぁ、…はッ…」

誰もいない所までいって、
はやく…


「…ッ」


どくん、という強い鼓動が体中に響いて


や、ヤバイ
夜中ったって誰が見てるかわかんねぇのに。


神子と知れたら襲い掛かってくる輩がまだいるんだ
この状態で襲われたら、手加減なんて出来やしない



制御仕切れないマナが、今にも溢れ出してしまいそう


肩を抱く様にして、草の上にへたり込む。なんとか町を出ることは出来たけど


「はぁ、はぁ…」


彼が居てくれたら。

頼ってくれ、と言ってくれた彼に、まだ素直に甘える事が出来ない自分がもどかしい

本当に好きな相手には、何処までも臆病で。



どのくらい呆けていたのか、もしかしたらほんの少しだったのかも知れないけれど

ふと、見上げたら、

「っ…なんで…」


なんで、此処に?

「ふぅ…それはこっちのセリフだ。…顔色わるいぜ、具合悪いのか?何で外出たんだよ?」

つか…タイミング良すぎないか?まさか幻じゃないよな〜?

起こそうと差し出された彼の手を、状況を忘れてふにふにと触ってみる。

「…なんだよ、俺の手がどうかしたか?」

ちょっと呆れ気味だけど、いつものロイドくんの声が頭上から掛けられる。
良かった…本物だ。

強張ってた体が、ふっと楽になった気がして

「…へへ、いやぁ、あまりにさ…」

「?」

「いんや、なんでも〜…」

今度はちゃんと手を掴んで、よいしょ、と起き上がる

「なぁ、どうして外に?」

「ん〜…」

そう、だな。見られちゃったらんだから、言うべきか。
それに、今はぐらかしても後からしつこーく訊かれちゃうだろうし。

「…じゃあさ、一緒に来てくれるか?」





「別にいいけど、」

何処へ、と問おうとしたら、そっと抱き締められて

「っ、ゼロス?」

「あんま、動いちゃダメよ?」




オレンジ色の光、次いで浮遊感。ずり落ちそうでゼロスの首に強く抱きつくと、一瞬ピクリとしたがすぐに彼の腕にも力が入った。

前から思ってたけど…やっぱりこいつ、体温低いな…
冷たい夜風が、特徴的な紅髪をさらさらと撫でて行くのを肩越しに見ながら思う。

暫くそれに見惚れていて、はっと視線を地上へと戻すと、町からはもう大分離れていた

「お、おっ…すげー!!」

闇色の空には、今にもこぼれ落ちそうな星々がきらきらと煌めいていて

「でしょ〜、今日は特に綺麗なんだぜ〜」

ん?

「今日、は?」

「ぁ…ん〜…うん」

「なんだよそれ」

訳有り、みたいだな。
まだ、俺のこと信用してないのかな、なんて

「…無理には、きかねぇけど」

ちょっと、寂しいな…と呟くと、彼は慌てた様に

「っ、違…これから、ちゃんと話そうと思ってたの!場所を探して…ほら、あそこなんてどうだ?」

首を捻って左方向を見てみると、森の中に小高い丘になっている部分があった。
まぁ、俺は何処だって構わないんだけど、な。






空から見ていたせいか小さく見えていたその丘は、実際立ってみるとけっこう広大で。
夜露に濡れたやわらかい草の上を歩きながら、適当な所を見付けて、並んで腰を下ろした。

寝転がって星を見上げながら他愛のない会話を楽しむ。こんな風に二人きりで、暗い時に話すのは何度目だろう。





「…救いの塔で天使になってから、たまにあるんだ」

笑いあって、会話が途切れた所でゼロスがぽつりぽつりと話し始めた。

「…うん」

「多分…体がまだ馴れねぇんだと思うんだけどな…」

話を聞くと…どうやら満月の夜になると、そうなることに気付いたらしい。

そう言えば
月の満ち欠けはマナにも影響がどうのこうのって、確か先生が言ってたな。
溢れちゃう様な、感じなのだろうか。
コレットのマナが逆流した時のことを思い出す。

だからと言って呪文詠唱や、クラトスがオリジンを解放した時の様に体からマナの放出を事前にしておけば良いという訳でもない、と。

「それにあんま一気にやると消耗するっつ〜か…ツラいって事もあってさ…」





あぁ、やっぱり

天使となって皆の危機を救ってくれた彼は

塔から戻った夜
死んだ様に、眠って

俺はずっと側について
何度も呼吸を確認して

あんな事は、もう二度と




「…じゃあ、こういう形で少しずつマナを出してるわけか…」

「そ〜ゆ〜こと。一晩掛っちゃうのがめんど〜なんだけどな。宿でやって騒がせちまうのもアレだしよ…でも、」

こうやって星を見るのもいいし、それに

「今日はオマケもついてるしな」

膝を抱えて座り、夕焼け色の羽根を背負う彼を、無意識に見つめていたらしい。
オマケ、なんて言われて黙っているのが不思議だったのか、
俺の方をちらと見て視線が合うと、照れくさそうに視線を外してまた星空を見上げて

「なんだ、ぼーっとしちゃって。俺さまに見惚れちゃった?」

「…さぁな。見惚れてたとしてもいわねぇ」

なによそれ、と言いながらも彼の横顔は、何が嬉しいんだか微笑んでいて



そう言えば
二人でいる時に限って、ゼロスが素直に笑っているのに気付いたのはいつだったか


そうだよな
こいつは綺麗に笑えるんだから

この笑顔を曇らせない様に

俺が、必ず

「             」

 しあわせに、してやるからな

「ん?」

「なんでも。なぁ、今度から俺を連れてけよ。一晩付き合ってやるからさ!」

「あーん?今日は特別サァビスだけど、次回からは5000ガルド貰うからなぁ」

なんつったってこの、神子ゼロスさまとランデヴー出来るんだからよ〜!!と、いつものようにおどける彼をべしっと叩く。

「いって、何すんだよバカロイド!」

「バカって言うな!」

男とデートしたってつまんねぇ、なんてふて腐れてぶつぶつ言ってるけど


どうやらその申し出は、お気に召して頂けたようで。


「はは、わかりやすくていいかも」

「んん?何がよ?」


とてもきれいで、触れることは叶わないけれども、温かい彼の背中のそれは
持ち主の感情を表すかのように
先よりも光量を増して、ゆらりゆらりと、楽しそうに揺れていたから。



「さ、もう一回連れて行ってくれよ」

「…へいへい、お好きなところへお連れしますよ」


立ち上がって、貴族よろしく大袈裟に礼をしたゼロスの背後に回って抱き付く。
いまいち、どの体勢がゼロスが飛び易いかわかんねぇから
これから研究してかなきゃな。


「あ、なんか羽根あったかいかも」

「俺さまも背中が…つかロイドくんあつくるしー」

「あっためてやってんの!」


けらけらと笑い合いながら、二人で蹴った地面はどんどん遠退いていく。
気持ち良さそうに風を切るゼロスを、ぎゅっと抱き締めた。


好きだ、という


まだ、言葉に出来ない想いを込めて。



2005/6/14
BACK