無題



「ゼロス…」

…ユグドラシル様

「ミトスと呼んで」

望み通りの名を呼べば、綺麗で無垢な笑顔を溢す。

「ねぇ、ゼロス。もう、何処にも行かないでしょ?」



「ね…」


ロイド達が消えた後、瀕死状態で横たわる俺を
時空を越えて連れ出して。

こんな…歪んだ次元の狭間へと閉じ込めて

最初から、行かせる気なんてないんでしょう?


「フフ……ああ…やっぱり、お前は薔薇の花が似合うね。
…綺麗だ、とても。
花も悦んでいるみたいだよ…?」


こんなに綺麗に咲いて…、と何処か恍惚と、血の様に色付いたみずみずしい花弁に触れながらミトスが言う。


「…もう、姉さまの事なんてどうでもいいんだ。ユアンも、クラトスも、みんな僕から
去った。
…でも、お前さえここに居てくれれば…」

うっそうと草花の茂る部屋。
四方を美しい薔薇に囲まれ、中央の棺に横たわる美貌の青年。
光を失った彼の瞳とは反対に、致命傷となった胸部の傷から萌え出た薔薇は美しく、艶々ときらめいていた。
血の気の失せた肌は、それでもまだ、美しかった。

気の振れてしまったかつての主、ミトス・ユグドラシルによって彼は一命をとり止めた。
しかし青年はそのような体になって生きたいとは、欠片も望んでなどいなかったのだ。

声を出すこともこの体では叶わない。思考も、鮮明ではない。
念じる様にして、変わり果てたゼロスは他の存在へと語りかける。


ミトス…お願いだから、


「分かってる。もうすぐ、あいつらが来るんだろう?
大丈夫…僕に勝てる人間なんて、この世にはいない。僕が帰るまで、安心して待ってい
て」


違う、ミトス
俺が望んでいるのは…


身を屈めた彼からそっと、手の甲に唇が落とされる。


おそらく
彼は、もう戻らない。

踵を返して遠ざかる彼の背中が虹色に光る。

待って

貴方がいなくなったら、一体誰が自分を解き放ってくれる?
歪められた次元の狭間であるここへ来られる人間など…





お願い


お願いだから




もう かせて







断絶された空間

もしかしたらそこで、青年は今も、身を包む花達と共に生きているのかも知れない。

時を越える力を持つただ一人の存在へと、無意識に呼びかけながら…






2006/3/29
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